第二十八話
(かたいな)
俺がベッドの中で、もぞもぞと身じろぎしていると硬い何かが当たる。
(ああ、ヴァルか)
そういえば昨日、ヴァルがベッドの中に入ってきてたな。
彼女は自動人形なので、人間のように柔らかい肉体を持ってはいない。
その分身体が人間なんかよりも遥かに丈夫で、強いのだが。
(今考えてみるとモンスターって生身なんだよな)
ヴァルや銅鳥なんかもいちいち服や武器を手にしていないし、そのままの何も装備していない状態で戦っている。
(ヴァルなんかは身体能力もかなり高いだろうから、武器とか防具を装備したらかなり強くなりそうだな)
近接戦闘とかだったら素の状態でも俺の何枚も上手だしな。
(滅茶苦茶いい掘り出し物だったんじゃないか?)
ヴァルの身体をつつきながら、そう思う。
ヴァルの装備の費用は少しかかるが、その分ダンジョンの奥まで潜れるだろうから、敵のレベルも上がって、経験値も入りやすい上に採れる素材もいいものが増えるだろう。
(よし、そうと決まれば買いに行くか)
俺は体を起こすと、ヴァルを揺さぶって起こす。
するとヴァルの目がパッチリと開いた。
「ヴァル、買い物に行こうか」
俺がそう言うと、ヴァルはよくわかっていないのか、首をコテンと傾げるのであった。
♦♦♦
探索者用の装備ショップから出てきた俺は、なんとも言えない感覚のまま大きく息を吐きだした。
(高かったな)
予想はしていたんだが、ヴァルの装備にはかなりの金額を使うことになった。
ヴァルの膂力に合わせた丈夫な剣に、硬さが自慢のモンスターの素材を使った大盾、探索用の丈夫な衣類などなど、全てを合わせた金額で百万近くしており、俺の財布が悲鳴を上げている。
高額な買い物が続き、俺の精神は未知の感覚に襲われていた。
(金銭感覚が狂いそうで怖い)
探索者をやっているとポンポンお金が無くなっていく。
探索者をやっていくには兎に角金が必要で、多くの者が最初に挫折するのは金銭の問題だ。
高位の探索者の装備の中には億を超えている物もざらにあるのだから、探索者に金が必要と言う言葉の意味が分かってもらえるだろう。
(今度から佐々木ダンジョンに潜らないとな)
あのダンジョンならば、第十層程度を安定した狩場とできれば生活費は問題なく稼げる。
そうして更に奥へと進めるようになり、第二十層程度を狩場にできれば装備を新調しつつ、他のことにも金を使えるようになるだろう。
(東京第二ダンジョンをもっと探索したかったんだが、当面は無しだ)
佐々木ダンジョンの第十五層程度は安定していけるようにならないと、金の問題があるからな。
それに部屋のスペースがどんどん装備に取られていっているので、いずれは住居も変えないといけない。
「それにしても似合っているな」
俺はヴァルの方を見て、感嘆の念を込めて頷く。
元々プロポーションがいいからか、探索者用の服ですら彼女とマッチしており、装備している剣と盾もいいコントラストを演出している。
辺りを歩く人も自然と視線が引き付けられているのが目につき、買って正解だと改めて思った。
(早速、今日から稼ぐか)
今は昼時、夜までには全然時間がある。
俺は金を稼いでいくことを決心するとヴァルと共に、佐々木ダンジョンへと向かうのであった。
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