第二十七話
ヴァルをテイムした後、俺は直ぐに東京第二ダンジョンを後にしていた。
行政側にはヴァルをテイムしたことをスマホで撮った写真とともに伝えて、今は自宅であるマンションに帰宅していた。
テイムのスキルを持っているかどうか聞かれないのか?と疑問に思うかもしれないが、この世界で現状、政府側が個人にスキルについて聞くことはタブーである。
昔と言っても二十五年ほど前のことであるが、とある国がスキルの情報をハッカーに盗まれてしまい、その情報が良くないところに流れた結果、探索者が何百人も殺される事件が発生した。
同時にではないものの、この情報漏洩が原因であることは明らかであり、スキルの情報は自己申告制になったのだ。
スキルがバレれば、戦い方も分かってしまう。
そうならないためにも割と早いペースでスキルの申告を強制的に申告させるものから、自己申告制のものに切り替えることを義務付ける法案を作った。
これは探索者協会にも義務付けられており、探索者協会であっても全ての探索者のスキルを把握しているわけではない。
(嘘くさい話だけどな)
俺みたいなチートじみたスキルを持っている奴がいるのだから、鑑定の上位スキルみたいなので高位探索者のスキルぐらいは把握しているのではないかと思っている。
俺の情報も既にある程度握られているのではないだろうか。
(どうでもいいけどな)
裏で訳の分からない組織や、公安や探索者協会とかが色々やっているのかもしれないが、正直どうでもいい。
巻き込んでこない限りはノータッチ、これは今後も変えるつもりはない。
「魔力は美味しいか?」
ヴァルに何か食べるか聞いたところ、俺を指さしたのだが、流石に人間は食べないだろうと思い、直ぐに魔力(MP)であることを悟った。
ヴァルに手のひらを当てて直接魔力を送ってやると、喜んで魔力を吸い上げた。
(魔力っていったい何なんだろうな?)
魔力に関する研究を行っていた魔術師の記憶も混じっていたが、結局のところ、魔力については、神の存在証明のようなもの。
どれだけ研究しても証明できない、人類の永遠の謎のようなモノらしい。
(色々と研究はしているらしいがな)
どんなに頭がいい学者たちが知恵を絞っても、そうそう進展しないことも多いからなぁ。
何とも言えないだろう。
(とりあえず、今後の方針は俺とヴァルの強化だな)
従属魔術を使った後、ヴァルの動きを見せてもらったのだが、俺と戦った時よりもだいぶ遅くキレのない動きをしていた。
身体を復元する代わりに力を失ってしまったのかもしれない。
(レベルを上げれば解決するだろ)
この世界の強さはレベルを上げれば大体は解決する。
探索者として名を馳せれば金持ちにもなれるし、女にモテるし、権力だって手に入る。
これが世界の常識となっている。
俺もそれでいいと思っているし、その世界だからこそやっていこうと思っている。
(強くなれば、気楽に生きれるしな)
俺はヴァルへの魔力供給を一旦やめた。
「今日はこのぐらいな」
マンションに帰って来るまでに回復したMPのほとんどを消費してしまった。
ヴァルが物欲しそうな顔している(ような気がする)が、関係ない。
無い袖は振れないからな。
「また明日もやるからな」
俺はヴァルを優しく頭を撫でながら、ベッドに横になる。
(疲れたな)
今日はヴァルとの死闘もあったし、いつもよりもだいぶ疲れてしまった。
不測の事態があったとはいえ、今後も体力の管理はしっかりしないとな。
(今日は早めに寝るか)
俺がベッドの上で横向きになると、ヴァルがガサゴソと音を立てながらベッドの中へと入ってくる。
(あ~ヴァル用の寝具も買わないとな)
俺はヴァルの行動を咎めることなく、受け入れる。
俺もベッドで寝たいし、ヴァルを床で寝かせるという選択肢は選べない。
「おやすみ」
俺は約二十年ぶりの「おやすみ」を言うと、そのまま眠りにつくのであった。
読んでいただき、ありがとうございます。
今後も執筆を続けていきますので、この作品をよろしくお願いいたします。




