第二十六話
(うん、どういうことだ)
真っ黒だったはずの自動人形が真っ白になってしまった。
目の色も赤から青に変わっているし、何となく雰囲気も柔らかい感じがする。
「俺の配下になったということでいいんだよな」
肯定の意を示すように頭を深く下げる自動人形(白)。
「そうか」
いや、困惑しているんだけどな。
黒くて禍々しい感じな上に敵意むき出しだったのが、白くなって従属の意思を表されても、飲み込み切れない。
(テイムしたのは俺なんだけどな)
俺が使った、テイムに類似した魔術、従属魔術。
モンスター専用の魔術で、倒して抵抗力を削いだ状態でのみ、効果が発揮される限定された魔術だ。
しかもこの魔術、必ず成功するわけでもなく、モンスター側が従属を拒んだり、既に誰かにテイムされている場合には効果が発揮されない。
知性が全くないモンスターには効果は問題なく発揮されるので、弱く知性がなければ問題がないのだが、今回のように知性を持っているモンスターにはちゃんと効果が発揮されるか分からないのである。
「分かった。じゃあ、俺の言うことは聞いてくれるってことでいいんだな」
再び頭を下げる自動人形。
間違いなく魔術は成功しているな。
(それにしても)
身体は完全に女性を模したものになっている。
それもモデルのような理想のプロポーションという奴だろうか。
男の俺から見ても下心抜きで、美しいと思えるような体つきをしている。
(おそらく、彼女でいいのだろうか?)
モンスターの性別とかは分からないんだが、とりあえずは女性と思っておいていいだろう。
というか、そんなことよりも聞きたいことがあるのだ。
「どうして身体が元に戻ったか分かるか?」
これは俺だけの力では不可能なはずだ。
魔術は強力であるが、相応の対価を必要とする。
MPの総量が大してない俺に、身体の復元などはできる筈がない。
俺の指摘に彼女は首を縦に振った。
そして地面を指さし始める。
「地面?・・・・・そうか、ダンジョンか!」
彼女は再び首を縦に振る。
ダンジョンの力を使って肉体を再生したのか。
俺が一人頷いていると、今度は指先が俺に向けられる。
「俺・・か?」
またまた頷く彼女。
俺とダンジョンの力で再生したってことか。
(俺のMPとダンジョンの魔力によって再生したってことか)
「じゃあ、色が変化した理由は分かるか?」
今度は首を左右に振る彼女。
(従属させると色が変化するなんて情報はなかったんだけどなぁ)
従属魔術にそんな情報はなかった。
モンスターを配下にする魔術ってだけで、他の効力は特にない筈なのだ。
(分からないことは考えても仕方ないか)
違和感は残るが、魔術という不可思議な技術を使って起こったことだ。
俺が知らない未知の作用が起きていても、何ら不思議ではない。
(この辺はおいおい分かってくるだろう)
そもそも、こんな強いモンスターが第三層で出てくることがおかしい。
普通はこの辺りにいるモンスターを少し強くした程度のものしか出ないだろう。
(このスキルが何かいわくつきなのかもしれないな)
スキルを手に入れてたった2週間で探りを入れられるほどだ。
ただの強力なスキル、というだけでないことは確かだろう。
(それでこの子の名前なんだが・・)
俺が彼女を見つめると、こてんと首をかしげる。
かわいいな。
(だけど、無茶苦茶強いんだよなぁ)
見た目は清楚で美しいんだが、先程死闘を演じた身としてはその部分だけを素直に受け取ることはできない。
直ぐにかわいいという言葉が出てきている時点で、既に彼女に毒されているようなものだが。
(なんて名前にしようか)
俺が彼女を見つめながら考え込んでいると、ある言葉が浮かび上がってくる。
(そうだ、彼女にぴったりな名前があるじゃないか)
「ヴァル、それが君の名前だ」
名前はもちろん、戦乙女、ヴァルキリーから取っている。
この自動人形は誰が見ても美しいと思えるような見た目をしているし、彼女の戦う様はまさに戦う乙女といった感じだ。
俺の言葉に頷く、彼女。
「よし、決定だ。君の名前はヴァル。これからよろしく頼むぞ」
俺が手を差し出すと、ヴァルは俺の手をそっと握るのであった。
読んでいただき、ありがとうございます。
月間ジャンル別3位、週間総合(連載中)5位、週間総合7位になっていました。
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これからも執筆活動を続けますので、この作品をよろしくお願いいたします。




