第二十四話
俺と黒い自動人形は互いに睨み合いながら、一歩も動くことはない。
(さて、どうしたものか)
この黒い自動人形は近接戦闘に長けたモンスターなのだろう。
今までの自動人形は弱すぎて、近接戦闘においても俺の方が圧倒的に強かったが、この自動人形は別格だ。
(はっきり言って、強すぎるよな)
こうして睨み合っている間にも俺のMPは減少を続けている。
レベルアップや鍛錬によってそれなりの量のMPがあるにしても、このまま立往生を続けていれば、こちらのMPが尽きて、なすすべなくしまうだろう。
風向きをこちらに変える必要があるな。
(とりあえず)
『フレイムバレット』
炎の弾丸が黒い自動人形に迫るが、あっさりと躱されてしまう。
しかし、そんなことは分かり切っている。
(炸裂)
「!?」
魔法は決まった現象を起こしたり効果を出すことしかできないが、魔術は多少の応用が利く。
炎の魔術を使っておきながら、途中で炎を水に変質させるなんて芸当はできないが、今回のように炎の弾丸を着弾前に爆発させるなんてことも可能になるため、より実戦向きとなっている。
(あんまり効いてはなさそうだな)
この程度の攻撃は黒い自動人形にはかすり傷程度しか負わせられないらしい。
俊敏性、パワー、耐久性、どれも高く、唯一の欠点として遠距離の攻撃手段がないくらいであるが、その程度はこのモンスターの弱点にはならない。
(ほぼ無敵じゃん)
こちらがアイツの近接戦闘能力よりも上回っていれば話は早いのだが、俺の剣術と魔術による肉体能力の強化をして戦っても少し分が悪い。
(肉体を強化して、結界を身体に纏わせてっと)
防御魔術を解き、本来は自身の周囲を膜で覆うようにして攻撃から身を守るのだが、その応用としてその範囲を限界まで狭めることで結界を体に纏わせることができる。
すると、黒い自動人形は間合いを詰めてきた。
(ギリギリ見えるな)
強化された動体視力によって、黒い自動人形の動きが目で追える。
腕がしなり、俺の顔面へと振るわれる。
俺は刀を握りしめると、カウンターで腕目掛けて刀を振るった。
俺の刀と自動人形の腕が交錯する。
(かってぇ、だが)
衝撃によって互いの肉体が飛ばされる。
遠くに立ちこちらを睨みつける(俺はそう感じた)黒い自動人形を見据える。
チラリと見たが、俺の刀に損傷はない。
それに対して。
(なかなかのダメージを負わせられたようだな)
半ば捨て身のような攻撃だったが、自動人形のほっそりとした腕に大きく切れ込みが入っており、それなりの損傷は与えられたことが分かる。
(もう通じないだろうな)
炎の弾丸の炸裂も、剣術も、アイツには通じないだろう。
一度見られた技は通じない。
そんな予感がする。
(問題はないが)
魔術と言うスキルの真骨頂はその知識である。
異界の魔術師が生み出した宝と相違ない秘術の数々が凝縮されている。
魔法なんて比ではない量の膨大な術式の数々。
そして、それを扱うためのノウハウの全て。
魔術を本気で使えば、現状負ける相手などほぼいない。
剣術という落とし込めていない技術と完璧なまでに極められた魔術をマッチさせても、上手くいくはずがないのだ。
(さて、倒しますか)
そう、これまでは小手調べのようなモノ。
持久戦なんてせず、短時間で仕留めにいけば、負けるはずがない。
魔術という最強のスキルを持っている俺が負けるはずないのだ。
俺は気持ちを高揚させると、人生で初めて浮かべる好戦的な笑みを作る。
「決めようか」
俺はMPを大量に消費し、使うことができる最高の魔術を放った。
読んでいただき、ありがとうございます。
ジャンル別月間4位、週間総合(連載中)6位、週間総合8位になりました。
作者としては想定の範囲外のことばかりで、本当に嬉しいです。
この結果を得ることができたのも、読者の皆様方のおかげです。
いつもありがとうございます。
これからも引き続き執筆活動を続けていくので、この作品をよろしくお願いいたします。




