第十九話
あれから約三時間程度眠った後、俺は既にネットで買っていたステーキ用のワイバーン肉を焼いていた。
スーパーなどの店舗は事業を縮小し、今は安全安心に食材を手に入れられるネットによる注文が主流になっている。
味を付けたワイバーン肉の両面をしっかりと焼いて、その後は弱火で火を通す。
ジュウジュウと、肉の焼ける音が心地よい。
(できたな)
焼けた肉と添える用の野菜を皿に載せ、あらかじめ炊いていた米を茶碗についだら、テーブルの上に置く。
「いただきます」
もともと自炊はあまりしておらず、こんな風に食材を焼いたり、ご飯を炊くのもここ十年ほどやっていない。
普段は冷凍食品をレンジで温めるだけで、自炊のようなものを再開したのは会社を辞めてからだ。
(旨いな)
俺はワイバーン肉にハマっていた。
口の中に溢れる肉汁が最高に上手く、肉の柔らかさもちょうどいい。
正直ファミレスよりも焼き加減を調整できるためか、自分で作った方が旨かった。
(特に探索後だからか肉が身体に染みる)
疲れは睡眠である程度抜けたが、栄養が足りない。
もともと体型も細い方で、食も細い方だった。
(あの時、冒険して良かったな)
自分で作ったワイバーンステーキがここまで旨いモノとは、本当に知れてよかった。
米とワイバーン肉は次々と俺の胃袋の中へと消えていき、ものの数分でなくなってしまう。
(さて、満腹にもなったことだし、あらためて今後のことを考えますか)
と言っても、寝る前に考えていたことと、たいして変わらないような気もするが。
(向こうからの明確な接触があるまでは基本ノータッチ、俺のこれからの行動としてはダンジョンでレベル上げだな)
レベルが上がり、MPが増えれば魔術の幅や使える回数も増えていく。
魔術の中には魔法ですら聞いたことのないようなものもあり、それらの魔術は普通の魔法などが比にならないほどに強力だ。
(知識が完全に頭の中に入っているから、イメージも楽だしな)
イメージが困難だからこそ魔術は利点が大きい。
魔術の性質を細部まで理解しないとMP消費を抑えることは難しく、ただの劣化版魔法に成り下がるが、俺は知識の習得過程と魔術のイメージを明確にすることをすっ飛ばして一瞬でイメージができるので、ほぼノーリスクで大きなリターンを得ることができる。
(正直東雲さんが、あのレベルなら倒せないことはないんだよな)
彼女は探索者初心者である俺から見てチートじみた強さだったが、肉体強化系や動体視力を強化する魔術を使いつつ、防御系の魔術を駆使しながら、接近戦に持ち込むと見せかけて自爆する魔術を撃って向こうにだけダメージを負わせる。
この戦法であれば、MPがすっからかんになってしまうが、東雲さんにかなりのダメージを負わす、または倒すところまで持っていくことはできるだろう。
(まあ、それができたところで意味がないんだけどな)
俺のことを把握するぐらいだから、その組織は相当な情報量と人脈や人員を確保しているだろう。
普通に政府に干渉することもできるんじゃないだろうか?
(そんな組織に下手に噛みついても後になってこっちが終わるだけだし、俺はあちらから見て交渉のテーブルにも立ってないんじゃないか?)
一方的に接近してきて、監視しているという情報をこちらに秘匿。
交渉する気は現状ないだろうし、下手な行動はあちらに刺激を与えるだけ。
(自分のしたいことは妨げられることはないし、問題がないわけではないが、現状維持が無難だな)
起きた後も結論は変わらないか。
じゃあ仕方がない。
これが俺の選択なのだろう。
「よし、ダンジョンにでも潜るか」
時間は既に十二時を回っている。
しっかり眠って、しっかり食事を取ったおかげか、身体の調子はすこぶるいい。
俺が取れる最善の一手、それはレベル上げしかない。
俺はダンジョン探索の準備を済ませると、早速ダンジョンへと向かうのであった。
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