第百四十八話
「大丈夫そうですね」
弱り切った人喰いペリカンにトドメを刺した瞬間、安堵の混じった声が響いた。
「貴方たちはさっきの……」
先程第二十六階層で見かけた探索者四人組が、こちらに向かって歩いてきていた。
その様子は決して剣呑としたものではなく、俺たちに敵意があるようには見えない。
ゆっくりとした足取りで近づいてきたが、ある程度離れた距離で彼らは立ち止まった。
「いえ、二人組が二十七階層を目指しているようでしたから、少し気にしていたんですよ」
リーダー格だろう、一人が前に出て柔らかい笑顔を浮かべて言う。
二十代半ばであろうか、若いがそれを感じさせないほどに、柔らかい雰囲気を纏っている青年であるが、その表情の奥には自信と芯の強さを感じさせる。
ダンジョン内にもかかわらず、温和な雰囲気を出していることに加え、この階層で活動できる探索者である以上、その実力は相当なものだろうと思われた。
「それは、なんか、すみません」
客観的に考えてみれば、確かに、男女二人組の探索者が、Bランク探索者が活動するような階層にいれば、記憶にも残りやすいだろう。
ましてや、俺は先日Bランク探索者に上がったばかりであり、その中では、決してレベルが高い方ではない。
身体の動かし方から強さを、読み取ることもできると考えると、俺たちのことが気になるのは妥当であるようにも思われた。
「いえいえ、こちらが勝手に気にしていただけですから」
本当に善意で気にしていただけなのか、それだけ言って四人組は去ろうとするが、リーダー格の男がこちらに振り向き、口を開いた。
「後藤誠と言います。お互い頑張りましょう」
そう言って、今度こそ俺たちの前から去っていく。
どこか余裕のある雰囲気だったので、Bランク探索者の中でもなかなかの実力者なのかもしれない。
(強さも見えづらかったしな)
洗練されているのは分かったが、もしも、であるが、あの四人組と戦闘になっても簡単に勝てるようには思えなかった。
姿が見えなくなったところで、俺は口を開く。
「どう思った?」
ヴァルの方を見ると、細剣の柄を撫でていた。
「かてる」
「そうじゃなくて、警戒する必要はあるのか、聞いたんだが」
「そっちか~、う~ん、それはだいじょうぶ、だとおもう。もし、そうなら、さいしょに、きづく」
そう言って、ヴァルはストレッチのつもりなのか、軽く大盾を振り回す。
「そうか、じゃあ大丈夫か」
俺は人喰いペリカン戦から使い続けていた、身体強化系の魔術を解くのだった。
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