第十一話
第二層を進んでいき三十分ほど過ぎた頃、第三層に続く階段を見つけた。
「せっかくなので、そろそろ昼ご飯にしませんか」
東雲さんが階段の前にあるセーフティゾーンを指さしながら言う。
ダンジョン内の次層への階段とその周囲はモンスターが攻撃できないセーフティゾーンになっており、探索者は攻略を進めながら、階段とセーフティーゾーンを目指していく。
地面にはセーフティゾーンの範囲を示す線が引かれており、それが目印となっている。
第一層でセーフティゾーンに入った時、ゴムバレットが自ら飛び込んできたが、一瞬で消し炭になっていたので、安全であることは確かな筈だ。
「そうだな、ちょうど腹も空いてきたし」
「では、そうしましょう」
俺と東雲さんはシートを地面に敷き、その上に座ると各々持ってきていた食事を取り出す。
東雲さんはラップに包まれたおにぎり、俺はコンビニで買ったゼリードリンクを取り出した。
「伊藤さんはそれがお食事ですか」
東雲さんは俺が持っているゼリードリンクを物珍し気に見る。
「ああ」
「そんなもので足りるのですか?」
「足りる足りないで言えば、足りるだな」
満腹感を出すようになっているし、栄養価も高い。
俺が買ったコンソメ味は味の点でも文句はなく、美味しいと言える。
昔は食事としては微妙な評価だったそうだが、今の世界では割とどこでも見かけるし、このゼリードリンクを専門で出す店もあるほどだ。
「そうなのですね」
「そういう東雲さんはおにぎりか」
コンビニではおにぎりを買うか、ゼリードリンクを買うか悩んだが、さっさと済ませられるゼリードリンクを選択した。
ダンジョン内で取ることを想定しなかったら、おにぎりを選択していただろう。
俺はゼリードリンクを飲み干しながら、東雲さんの食べる姿を眺める。
こうして見ていると十代の少女にしか見えないが、中身は二十歳のCランク探索者だ。
この年でCランク探索者になれているのであれば、Aランク探索者も夢ではないだろう。
(というか、現状でも遥かに俺より強いしな)
Cランク探索者ともなればレベルは100以上、行政に頼んでもらえる仮探索証しか持っていないGランク探索者レベル10とは比べ物にならないだろう。
(魔術を使っても無理だろうな)
もしかしたら勝てるかもしれないが、東雲さんはいいとこのお嬢様っぽいところがあるし、スキルもたくさん持っているのではないだろうか?
「そういえば、東雲さんはどうして探索者に?」
俺は少し気になっていたことを聞く。
探索者の男女比は大体男8、女2ぐらいで、女性が圧倒的に少ない。
それでも増えた方であり、ひと昔前の探索者のほとんどは男性だった。
これには理由がある。
戦いのほとんどが白兵戦であり、探索者にはモンスターと戦うための純粋な格闘能力や武器術の技量が求められていた。
他にもダンジョン内を歩き回る体力などが必要だっため、自然と探索者という職業は男性の方が多く存在していた。
気風が変わったのは割と最近のことで日本で史上初の女性Sランク探索者が登場したことがきっかけで、徐々に女性探索者の数が増えていった。
それでもやはり、少ないという事実は変わらない。
「俺はもともと探索者になりたかったんだが、仕事を取って夢を捨ててたんだ。だけど、先日会社を辞めて、今はちっさい頃に思い描いていた凄い探索者になることを目標にして、探索者をやっている」
「そう・・なんですか。私は家がそういう方針なので、探索者としての英才教育を受けて、そのままその道をずっと歩いています」
「探索者になりたいってわけではないのか?」
「どうなんでしょうね。私自身、これが習慣になってしまっているので、あまり考えたことはないです」
習慣か。
俺みたいな普通の中年では理解できないことなのだろう。
「そう・・か。でも活き活きとしている感じはするぞ。会ってまだ2,3時間しかたっていない者がいうことでもない気がするが」
ダンジョンに入る前と比べると雰囲気が研ぎ澄まされたような気がする。
完全に主観的な意見だが。
「そういう風に見えますか」
「そうだな。なんというか、水を得た魚みたいな感じだな」
「水を得た魚・・・・もしかしたらそうなのかもしれませんね」
曖昧に笑う東雲。
その雰囲気は会った時のどこか憂いを帯びたあの雰囲気と似ていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
本日、日間ジャンル別ランキングで3位となることができました。
本当にありがとうございます。
作者としてもランキングのトップ5には、いつか入ってみたいと思っておりましたが、その思いがこんなにも早く実現するとは思ってもみませんでした。
ブックマーク数は500を目前に控えており、総合評価は1500を超えました。
皆様のおかげです。ありがとうございます。
これからも励んでいく所存ですので、この作品をどうかよろしくお願いいたします。




