第十話
「ようやく次の階層か」
本来は一人で探索する予定であったダンジョンの探索であったが、特に障害にぶつかることもなく、第二層へと続く階段まで到着した。
ゴムバレットがモンスターとしてかなり弱いこともあるが、東雲さんの威圧スキルの効果によるものが大きい。
「次のモンスターはレッドスライムだったよな」
「はい、レッドスライムはゴムバレットと比較すれば強いと言えますが、伊藤さんの実力であれば、問題なく戦えるでしょう」
レッドスライムは東雲さんの言う通り、ゴムバレットと比較すれば強いと言えるが、モンスターとしての実力は最下級だ。
とは言え、ゴムバレットは寝ていても大した障害を与えられることはないが、レッドスライムは体表から出てくる液体でこちらの皮膚をやけどさせてくる。
攻撃も単調で、スピードもゴムバレットよりも遅いが、その一撃の危険度は少し痛い程度しかダメージを受けないゴムバレットを大きく上回る。
「おっもう現れたな」
こうして喋ったりしながら階段を登って、直ぐのところで赤い半透明のスライム、レッドスライムが現れた。
サイズは直径三十センチ程度で、目や耳に類似するものはなく、口も見当たらない。
(口は普段は完全に閉じているそうだが)
普段スライム系のモンスターには口はないが、食事をするときには裂けたように大きく開き、獲物を飲み込む。
なかなか恐ろしいモンスターだ。
「あぶね」
それなりの速さでレッドスライムが突っ込んでくるのをサイドステップで躱す。
(それにしてもホントによく動けているな)
突然の攻撃にも難なく対応している。
(残業続きでろくに眠れないなんてことがなくなって生活習慣が改善したのと、魔力放出訓練のおかげで集中力が増したからかな)
レッドスライムが再び突進してくるのに対して、俺はゴムバレットと同じ要領で躱しざま剣を振るい、スライムの中央にある急所【魔核】を真っ二つにした。
魔核は現在のエネルギー源の一つとして利用されている。
適切な処理をすればかなりのエネルギーになるらしく、ゴムバレット同様探索者協会で買い取りをしてもらえるため、手袋をはめた手で魔核を取ると、リュックの中にあった袋に入れた。
「東雲さん、威圧をお願い」
「分かりました」
レッドスライムの核はそこまで金にはならない、ゴムバレットも同じだが、これらのモンスターは比較的安全に狩ることができるため、初心者探索者の稼ぎとしてはよく使われる。
(俺は一応それなりの実力者みたいな感じで通っているからなぁ)
東雲さんの反応からも俺のことは初心者であるとは思われていないように思われる。
年齢のこともあるのだろうが(というかそれが大きそうだ)、剣捌きなどからも始めたての初心者とは思われていないのが理由だろう。
実際には十数年以上も探索をしていないし、剣も握っていない初心者同然の中年であるが。
「東雲さん、俺は久々だから第五層程度にとどめておこうと思っているんだが、いいか?」
「いいですよ。伊藤さんを半ば無理やり連れてきて、ダンジョン探索の方針まで自分で決めるなんてことは流石にしません」
「分かった。じゃあ今回の探索は第五層までってことで」
東雲さんの了解も取れた。
とりあえずはそういった方針でダンジョンの探索を進めていくことにしよう。
東雲さんの了解を取れたことに内心安堵しながら、俺と東雲さんはダンジョンの奥へと進んでいくのであった。
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