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第百話

 


 ホテルの部屋に備え付けられているシャワーで体の汚れを落とした後、俺はホテルにあるレストランで食事を取っていた。


(うめぇ~)


 頼んだのは牛フィレステーキセット。


 基本的にはワイバーン肉を好んで食べている俺だが、お高いものの滅多に見られない牛のステーキを注文してみたのである。


 肉は力を入れずにナイフで切れるほどに柔らかく、フィレということもあって脂身はそこまで多くない。


 肉の味もしっかりと感じることができ、非常に満足のいく味をしている。


(やっぱり、トレーニング後の食事は最高だ)


 それがより、トレーニング後の食事を美味しいものにしている。


 トレーニング後はいつもよりも食欲旺盛になるし、タンパク質を欲する傾向があるので、うってつけのメニューだった。


(肉うめぇ……ん?)


 そうして肉に舌鼓を打っていたのだが、今度は見慣れた姿が視界に映った。


 この場で見慣れた姿と言えば、二人しかいない。東雲とヴァルである。


(おいおい…マジか)


 今日は彼女たちとは別行動をとっていた。


 東雲とヴァルは近辺で散策を、俺はジムでトレーニングをして、完全にオフを満喫する予定であったのだが、レストランの外で、東雲たちがナンパ?を受けていたのである。


(うわぁ)


 二十代半ばぐらいの男性のグループがかなり強引に、二人へと話しかけていた。


 ヴァルは勿論、東雲も完璧なまでの無表情である。


(これは行かなきゃダメだな)


 正直、二人を相手に何かできるようには思えないが、仲間が面倒事に巻き込まれている以上は、出向くのは筋だろう。


「すいません、お会計を」


 俺はステーキを食べ終える前にさっさと会計を済ませ、名残惜しさを感じる暇もなくレストランを出た。


 食べ物が勿体ないが、緊急事態である。


「ちょっと、そこの三人」


 俺が駆け足気味でレストランから出て、二人の元に駆け寄ると、東雲の表情に人間味が戻った。


 先程まで能面のような無表情になっていたので、一安心である。


(さてと)


 男性のグループは連れの存在に気付いて引こうとしたが、連れが俺であることを認識すると、舐めた雰囲気を出し始める。


「……」


 無言のまま、俺に詰め寄ってきた。


 彼らは探索者?と思われ、身長も高く、体もしっかりと鍛えられたものであった。


「なんだ?」


 詰め寄ってきた男に目を合わせる。


 俺よりも幾分身長は高いが、ミノタウロスよりは小柄だ。


 雰囲気もそこそこ強い感じはするが、ヴァルや東雲には遠く及ばないもので別に大したことはない。


「アンタが二人の連れか?」


 もう一人の男がニヤニヤと笑いながら、前に出てくる。


 これで俺は二人の男に詰め寄られる形となった。


「そうだが?」


 だが、俺は特に臆することなく言葉を返す。


 探索者になる前であれば、身がすくんでまともな言葉を返すことも難しかっただろうが、修羅場を潜り抜けた経験のおかげか、今は特に何も感じない。


 俺が特にビビることもない様を見て、想定とは違ったのか、二人の男の顔が徐々に渋くなる。


「ほら、その辺にしておけ」


 二人の男の雰囲気が徐々に剣呑としたものになっていった時、もう一人の男が二人の肩に手を置きながら、待ったをかけた。


「すまない。二人は昨日の探索でミスをして気が立っていたんだ。いつもはこうではないんだが…」


「ちょっ、おま」


「黙れ、ナンパの域を超えてるだろこれは…。それに周りを見ろ」


 最初に詰め寄ってきた男が声を荒げようとしたが、仲裁に入った男はそれを遮り、強い口調で言う。


 俺がチラリと周りに目を向けると他の客のほとんどがこちらに視線を向けていた。


「くっ」


「じゃあ、行くぞ。申し訳ありません、後できつく言っておきますので」


 仲裁に入った男はそう言うと二人を連れて、そそくさとこの場を後にした。


「助かりました、伊藤さん。やっぱり男性に守ってもらうのはいいですね」


 東雲がニコニコしながら言うが、彼女の場合、殺気で彼らを委縮させることも簡単にできただろう。


 実際、あと少し遅ければ、東雲は何かしらのアクションを取っていたに違いない。


(下手すると、殺気だけでアイツらを失神させてるかもな)


 正直、東雲の強さの底はさっぱり分からない。


 レベルが上がれば上がるほどに彼女の強さがどの程度なのか、分からなくなってくるのだ。


(それだけ、途方もない強さということなんだろう)


「そうなのか?」


 ただ“東雲だけでなんとかできただろ”なんて野暮なことを言う必要もないだろう。


 面倒な輩に絡まれていい気分ではなかっただろうしな。


「?」


 ヴァルの方はよく分かっていなかったのか、首をかしげている。


 ただ、普段外で接する時よりも、彼女の距離が近い気がするので、ヴァルも多少は不快だったのだろうか?


「そのままのヴァルでいてくれよ」


 ヴァルの様子に少しばかり毒気を抜かれた俺は、緊張してか自然と上がっていた肩を落とすのであった。


読んでいただき、ありがとうございます。


この作品もとうとう、百話に到達することとなりました。

読者の皆様方の支えのおかげで、ここまでくることができたと強く感じています。

初めてブックマークがつけられたことを今でも覚えていますし、ここまでついてきてくださった読者の皆様には、とても感謝しています。


読者の皆様方、改めて本当にありがとうございます。


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