第九十九話
遅くなり申し訳ございません。
(…29…30)
現在、俺は宿泊しているホテル内にあるジムで、軽めのベンチプレスをしている。
前に長野第五ダンジョンを潜って以来、隔日でダンジョンを探索しながら1週間ほど過ごしており、今日は探索が休みの日であった。
そのため、リフレッシュも兼ねてウエイトトレーニングに精を出していたのである。
(魔術で疲労は直ぐに回復できるし、トレーニングが捗るな)
探索者はモンスターと戦い、倒すことで稼ぐことに直結している。
そのためには武術の心得や技術、探索者としてやっていくために必要な知識なども重要であるが、何よりも怪我をしないように動くことが重要なのだ。
武器の扱いは短い時間でも継続して練習すれば自然と向上するし、戦う中で見えてくるものもある。
そもそも未熟であれば、戦うモンスターの水準を下げればいいだけの話だ。
必要な知識に関してもあまりにも知識がないと大変であるが、ほどほどに勉強をしていれば事前に調べるなどして補完できる。
しかし、怪我をしてしまえば、飯の種となるモンスターと戦うことができない。
(医療は発達しているが、費用は掛かるからな)
探索者である以上、怪我は付き物であるが、それでも頻度はできる限り抑えつつ、より軽いけがで済まさなければならない。
そのため、ウエイトトレーニングによる感覚のズレがあるまま、探索を行い余分の怪我をすることは探索者にとってリスクと言える。
そういったことを考慮して探索者の全員が全員、ウエイト・トレーニングを行っているわけではない。
俺のように回復するためのスキルを持っていれば、頻繁にトレーニングを行うのも問題はないかもしれないが、そうしたスキルを持っていなければ、探索を行った次の日にトレーニングをすることはまずないだろう。
(でも、人は多いよな)
探索者の宿泊客も多いはずであるが、ジムではそれなりに人の出入りが見られた。
この光景を見ていると探索者は皆、日々トレーニングに精を出していると勘違いしてしまいそうになる。
(問題はなさそうだな)
重量は軽めだが、上げた時の感覚で体の調子をチェックしていく。
既に数セットをこなしているが、違和感も感じることはないし、特に力が入りにくいといった感じもしないので、特段の問題はないと思われる。
「ふぅ」
あれから何セットかベンチプレスを行い、トレーニングを終えると、軽く息を吐きながら、ベンチから起き上がった。
こうしたトレーニングは単に体の状態をチェックするためだけでなく、自信にも繋がる。
トレーニングをすれば自然と筋肉は増えていくし、筋力は上昇するので、探索にも役に立つのだ。
そうなれば探索の能率も上がり、自然とプラスの方向に物事が進んでいく。
(魔術による回復前提でもあるけどな)
タオルで汗を拭きながら、そそくさとジムから出ていこうとしていたが、ふと視界に一人の女性が映った。
(あ~、この前の…)
視界の端には、先日エレベーターで出会った女性がデッドリフトをしている姿があった。
かなりの重量のバーベルをいとも簡単に床から上げている。
(あの重量を上げれるようには見えないが…やっぱり探索者は凄いわ)
探索者はウエイト・トレーニングをしなくてもレベルが向上することで、身体能力は向上していく。
実際のところ、俺のようにウエイト・トレーニングをせずにAランクにまで昇り詰めている探索者も少なくない。
そのため、見た目と実際の筋力が乖離しているケースが多いので、一般人が見た目でその探索者の実力を判断することは容易ではないのである。
(さて、腹も減ったし、一旦部屋に戻りますか)
先日エレベーターであっただけであり、俺とは何の関係もない。
レストランで何を食べるのか考えながら、俺はそそくさとジムから出ていくのであった。
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