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第九話 

 


 現在俺は東雲(しののめ)さんに半ば強引にダンジョンの中へと連れられていた。


 ある程度まで進んでいくと、東雲さんはくるりとこちらに向き直り、深くお辞儀をした。


「申し訳ありません」


「なにがだ?」


「ここまで半ば無理やり連れてきたことです」


 自覚はあったのか。


「実は先程、伊藤さんを睨みつけていた探索者のチームの男がしつこく言い寄ってきていまして」


 一人やたら怒りの混ざった視線を向けていたが、あんな風にガンを飛ばしてこっちを見ていたのはそういうことか。


「彼らから逃げるためとはいえ、伊藤さんを無理やり連れてきてしまいました」


「そういうことなら別にいいぞ」


 流石に自分のいたとすればのような年齢の女性が困っているのにそれを黙って無視するような性格はしていない。


 気付いてしまえば手助けするのは当たり前だ。


「そうですか、ありがとうございます」


 そう言ってもう一度お辞儀をする東雲さんに俺は頭を上げるよう言った。


「もういいから、じゃあダンジョンの探索を始めよう!」


 できる限り努めて明るいように言うと、その言い方がツボにでも入ったのか、東雲さんはクスっと笑いながら頷くののであった。




 ♦♦♦




「それにしてもダンジョンはそれぞれ内部の景観がだいぶ違うんだな」


 この佐々木ダンジョンの内部は遺跡のようになっており、所々に光る文字のような紋様や魔方陣のようなものまで壁に描かれている。


「そうですね、この佐々木ダンジョンと同じような外観のダンジョンに潜ったことがあるのですが、中は延々と続く砂漠でしたよ」


 ダンジョンによって様々なタイプがあるらしく、佐々木ダンジョンのように階層に分かれていて、進めていくごとに難易度が上がっていくタイプや、階層なんて概念はなく、永遠に続いていくような空間をひたすら進んでいくものまで様々だ。


 酷いものによってはやっと踏破したと思ったら、次の階層が出てきたなんてこともあったらしい。


「それは災難だったな」


「はい。砂漠以外にも森が延々と続く場合もあるんですよ。砂漠同様、迷いやすい上に、毒を持っていたり、擬態したモンスターも厄介なんです」


「確かにな」


 延々と続く森なんて恐ろしいこと極まりない。


 絶対に行きたくない場所だな。


「伊藤さんは、一層目で出てくるモンスターはご存じですか?」


「ああ、確か・・・ゴムでできた球体型のモンスターだろ」


「はい、ゴムバレットという名前のモンスターです」


 一層目に出てくるモンスターは、ほぼ一〇〇パーセントの確率でかなり弱い。


 このゴムバレットというモンスターも例に漏れず弱く、全力の攻撃でも精々小学生が投げたドッジボールの玉程度の威力、というかドッジボールの玉そのものだ。


(それだけ弱ければ、魔術を使う必要もないだろう)


 そう、俺がこの探索に同行したのも、魔術という反則級のスキルが露呈する可能性が低いと思ってのことだ。


 もしもこれから行くのが、さらに深い、魔術をふんだんに使わなければ勝てないような敵が出てくるような場所ならば二人での探索は拒否していただろう。


(理由を話されていれば、断らなかっただろうが)


 そんなことは仮定の話。


 考えるだけ無駄だろう。


「さっきからゴムバレットに出くわさないが、なんでなんだろうな」


 もう探索を始めて二十分ほど経っているのだが、一向に出くわさない。


 このままではモンスターと一体も出会わずに次の階層への階段に到達してしまいそうだ。


「あっすみません、実は時々【威圧】のスキルを使ってモンスターを追っ払っていたのですが、ダメでしたか?」


【威圧】か、確かMPを消費してモンスターを近づきにくくするスキルのはずだ。


 上級の探索者は低層を探索する手間を省くためによく使っているスキルだな。


「だからか、いや、久々のダンジョンで軽く戦っておこうと思っていたんだが」


「久々だったんですか?演習場では随分剣の扱いに慣れているように見えましたが」


 東雲さんが意外そうな表情でこちらを見てくる。


「実は定期的に練習はしていたんだが、ダンジョンに潜るのは久々なんだ」


 変に訝しまれても困るので適当にそれらしいことを言っておく。


 無いとは思うが、何か特別なスキルを持っていると思われても困るからな。


「そうなんですか・・分かりました。威圧は切りますね」


 東雲さんがそう言ってから五分後、目の前に黒いゴムの球体が飛び出してきた。


 びゅんと勢いよく、ゴムバレットが飛んでくる。


 俺はそれを躱すと、刀を抜いた。


「こいよ」


 ゴムバレットは半回転すると先程と同じような軌道で飛んでくる。


 俺はその攻撃を躱しながら、刀を振るい、ゴムバレットを綺麗に真っ二つにした。


「お見事です」


「ありがとう。このゴムバレットは俺が貰ってもいいか?」


「はい、ゴムバレットを狩らなくてももっと強いモンスターの方がお金になるので」


 だろうな。


 東雲さんはCランク探索者、こんな雑魚モンスターを狩らなくても金は簡単に稼げるだろう。


 ちなみにこのゴムバレットであるが、世界中にあるゴム製品の大半にこの素材が使われており、世界中の国でこのモンスターの討伐が毎日大量に行われている。


(そう考えるとつくづく今の世界はダンジョンありきだよな)


 俺はそんなことを考えながら、刀を鞘へとしまうのだった。






読んでいただき、ありがとうございます。

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引き続きこの作品をよろしくお願いいたします。

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