アンクル・ブレイク
『アンクル・ブレイク』
バスケなんかで起こる、と言っても滅多に見る事が出来ないトンデモ現象。
要は、相手選手を動きで翻弄しまくって相手の感覚が運動能力を置いてきぼりにしてしまい、最後に転ばされるものらしい。
「まぁ、そんな事考える前に、コイツらを少し大人しくしないとね。」
鎌が胴体を輪切りにしようと迫って来る。
さっきの槍みたいに飛んで避けても良いけど、そうすると不味い。
鎌の側面に手をついて跳び箱方式で避ける。
その先には狙いすました太刀が迫ってきている。
もし、不用意に飛び上がっていたら、足首を両方落とされるところだった。
硝子の靴を永遠履けなくなるところだった。
地面から浮いている足で刀の側面を蹴り飛ばして軌道を逸らす。
あ、心配しないで。我が家は代々、お転婆・暴れん坊の家系だから、それに対応すべく、最新科学的なsomethingで下着的に問題が無い様に、セーラー服の絶対領域化機構が備わっている。
要は、
「世界の不思議な力で絶対見えない、鉄壁スカートな訳!」
着地すると同時に後ろに飛びずさる。
流石に鎌と太刀、ダブルをただのCQCで殺るのは結構キツイ。
「うぅむ」「強いな。」
赤翠の鎧が感心する。
そんな事言ってるけど、単純なパンチ・キックの類いは何だかんだいって避けられている。
「見せてあげる。八坂家の『良く知らない歩法的な何か』と私がこの前バスケ部から借りた漫画から着想を得た『アンクル・ブレイク』を。」
そう言いつつ、クラウチングスタートの構えを取る。
これをやるには先ず、相手とそれなりに離れていなければ使えない。
ダッ!
足で石床を蹴り砕きながら走り出す。
ダダダダダダダダダダダダ
足音を大きくする為にわざわざ足裏で地面を叩き付ける様に走る。
二人を中心に旋回するように全速力で走る。
二人の目線は私を追いかけている。ここまではOK。別に、捉えられていても問題無い。というか。
(ここで見失われたらそもそもこれは使えない。)
ある程度全速力で走り、相手の目がこちらの速さに少し慣れ始めた頃。
コンパスで描いた様な旋回を少しジグザグ走行に変えた。
同時に、足音を大・やや大・中・やや小・小・無と音量を6つくらいに分け、更に音量をランダムにして鳴らし始めた。
更に止め。速度を変えた。これも急停止したり、急発進したり、減速し始めた所で急加速したり………、兎に角ランダムな速度で走り始めた。
視覚的遠近感、聴覚的遠近感、速度。この三つに急激かつランダムな緩急をつけ始めると、人は情報の整理が追いつかなくなってくる。
視覚的には近付いているのに音は遠退いたり、ゆっくりになっているのに凄まじい踏み込み音がしたり、目で追おうとしたら追いかけた先に誰も居なかったり……しかも、性質の悪い事に、ランダムだから感覚的統一性が全く無い。
要は、慣れようと思っても慣れられないし、慣れようと試みると慣れに酔う。
鎧二人の兜の内側の目が明後日の方向へ目を追いかけ始めた。
酔いが回って来た。
『人間の感覚は子どもを騙すように、簡単な事で呆気無く騙される。(by八坂八華)』
さぁ、ここ迄がアンクル・ブレイクの準備。
さぁ、とくと味わいなさい。
ダッ
二人の視線が私を追いかけられなくなった瞬間、相手の正面から、無音で、全速力で、姿勢を低くして突進する。
目が回り、正面に私が来たことを知った瞬間に動き始めるが、もう遅い。
相手との距離 30㎝。
両腕を『く』の字に広げ、
鎧達の膝にそれを叩きつけた。
バキ、ごきゅ!
鎧と中身が折れる音がする。
叔父さんとのマジプロレス中、叔父さんを跪かせるために編み出した、超低空ラリアット。
それが、『叔父さん撃砕撃』だ。
『明らかにアンクルブレイクって最初の歩法の方が相応しいよね⁉』と思った方。私もです。
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