炎精霊の困惑
爆炎に背を向けて去ろうとしたその時、火が揺らいだ。
「?」
振り返って死した娘の居た場所を見やる。
気のせいか?勘違いか?幻が見えたのか?否、違う。
小さかった火の揺らぎは広がり、渦巻き、大きくなり、火の中に黒いシルエットが浮かび上がり…………
「熱っ!!普通この火力端からぶつける?天井とか地面とか溶けてるじゃない!!」
両の手の中で何かを唸らせながら、シルエットが火を割って中から出て来た。
「ヒロインは死なんよ。何度でも甦るんだから!!」
あの娘が火傷一つ無いままに現れた。
手心は無い、人の身だからと加減をする様な真似はしていない。相手が魔法の類を使った形跡は無い、己が四肢と手の中の何かを使ってあれを生き延びた訳だ……。
「この柔肌… 火 傷 一 つ 無い! あの程度で私を殺れる訳無いでしょーが!!」
柔肌を傷付けられぬ我が炎…あの程度の炎……か。
「……訂正しよう。少なくともほんの僅か、私の悠久の虚無の、ほんの刹那だけを打ち砕く事が出来るかもしれない。」
その物言いが気に喰わなかったのだろう。むっとした表情で一歩踏み出す。
「ウジウジしてて鬱陶しい‼」
手にした獲物を一振り。炎を掻き消す。
「一発ブン殴らせろ!少なくとも焼肉にされかけた分はブン殴る!」
怒りのままに、しかし冷静さを欠かない動きでこちらに迫って来た。
絶え間無く焼き続ける。
こちらの炎は無尽蔵。この場の空気は焼かれ、熱され、並の人間ならば肺を焼かれる。
相手は並では無い様だが、それでも体力という制限は有る。少しでも気を緩めたり、仕損じれば焼かれる。
一発二発程度ならば骨まで焼くのは出来ぬであろう。が、こちらの炎は灰になる迄用意できる。
さて、何時迄保つだろうか?
そう思っていた。
が、中々に耐える。熱波でこちらに向かっては来れぬ様だが、それでも堪えている様子は無い。
にしても……………………
炎の二発目を弾いた所で三発目。
「ウリヤァァァァァ‼‼‼‼」
四発目。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ‼」
五発目。
「ドラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララドラァ!」
六発目……………。
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!」
七発目
「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!」
八発目
「ウッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!」
九発目
「ウバシャァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
十発。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無……ってなにやらすんじゃぁ!」
手に持った獲物で炎を悉く掻き消すのは解るが、あの珍妙な叫び声…鳴き声……呪文……呪詛?唸りは何だ?
御免なさい。どの面更新です。




