99回目 人造惑星
「こらー!わるいことしたや、めーでしょー?」
「・・・すみませんマスター」
「あやまゆあいてちがうのよ、おじさんたちにごめんねして」
ぷんすかといいだしそうな顔をして彼女は腰に手を当てこちらをみた。
「すみませんでした、お怪我はありませんか」
「え、あ、はぁ。大丈夫だけどよぉ」
「あんたその顔、かぶり物じゃねぇのか」
俺は傷つき血の滲んだ自分の三角耳をつまむ。
「自前です」
「いこ、ポリス」
「では」
ぽかーんと口をあけてみている強盗団をおいて、俺は少女を抱えて通りを後にした。
そびえたつ摩天楼、一億ドルの夜景の片隅で俺と少女リルは暮らしていた。
俺は狼獣人のポリス。少女一人を守るのでせいいっぱいのしがないボディーガードだ。
人類は自分が地球に暮らしているのか火星に暮らしているのかの区別もつかない状態で、
古の時代に何者かが残した超巨大ユニットで生活していた。
ユニットからは定期的に『ストレージ』と呼ばれる物質や生命体が生み出され、
それらは政府に管理されている。
人ならざるもの、獣人もストレージの一つ。
ユニットはユニットの中の生命体の中から一個体をパイロットに選ぶ。
パイロットが殺されるとユニットの機能は停止、
つまり人類はみな死滅する。
そうならないためにネズミ一匹から全てパイロットは中枢核の特殊施設に隔離幽閉される。
前のパイロットである蠅が自然死し、次に選ばれたのがリル。
政府の所有物である俺の役目はリルをあの牢屋まで連れて行くことだ。
物質生命かかわらずパイロット狙いで襲撃を繰り返していたテロリスト集団。
彼らのものになったポリスの同僚獣人レックス。
「お前は世界を変えたいと思ったことはないか、
俺はこの時をずっと待ち望んでいた。リルを渡せ」
「彼女は渡せない」
いつも口にする言葉は考えてから出すのが流儀の俺が、
その時に限っては条件反射で言葉が口に出ていた。
彼女に対する後ろめたさなのか、人類を守る政府への忠誠心からなのか。
実はパイロットを閉じ込めるのは政府がユニットの研究をするためだけ、
閉じ込められたパイロットは死なないように全ての生体機能を機械に奪われ端末として使用される。
リル次第で世界が変わってしまう事実を知る。
逃げるためにユニットの奥深くへと降りていくリルとポリス。
彼女を執拗に殺そうとする捜査官ブラック。
ユニット各部にあるターミナルを使い、次第にユニットを操るすべを身につけていくリル。
実は今ユニットの中で生きている生命体全てがストレージであると
ユニット最深部でメモリーにふれたリルは全てを知る。
ストレージのシステムを使った人体改造で究極人間としてパイロットの力も手にいれたラスボスと、
メモリーとパイロットの力とポリスに渡された銃で立ち向かうリル。
最深部には人類に置いて行かれた最後のロボットの一体が鎮座していた。
「この船はあなたの夢が描き出した世界、
あなたが本当のこの宇宙船のパイロットだったんだ」
彼が心の慰みに生み出した生命がいつか自分で世界の再生を望むのを彼は待っていた。
彼の孤独を癒すようにその体を撫で抱きしめながら
「なぜ私を選んだの?」
というリルの問いにノイズを吐きながらロボットがかすかに動き出す。
ロボットはユニットで生き、死んでいった者たちの言葉を次々に呟き、
最後にリルを送り出したあと生死不明だったポリスの声で「愛してる」と言った。
「ずるいよこんなの。ずるいよ……ポリス」
リルはユニットの最終システムを起動させながら、
まるでロボットが彼であるかのように耳元で小さく囁いた。
ユニットは起動し、内部の生命維持装置が緩やかにカットされみんな眠るように死んでいく。
パイロットの能力を使い彼女はユニット内部のすべてと、
そしてユニットの残された力で再生されていく地上を見る。
青くなっていく空の朝やけをリルの友達になった月の住人の二人が飛んでいく。
夢かうつつかポリスがリルのそばで彼女の髪を撫でている。
「このさきも一緒にいてくれる?」
そう尋ねるリルを抱きかかえ笑うポリス。
安心して眠りにつくリル、二人は光に向かっていく。




