98回目 不都合な勇者様
全身傷だらけ鼻血だらだらで酒場に入ってぶっ倒れる獣人アレックス、
気がついた後氷で頭を冷やしながら気付けだとマスターに出された酒を飲む。
助けた人間は獣人臭くてかなわんとさっさと消えていた。
「酒代はおごるよ」という苦笑いのマスターに彼は指ふりで感謝の意を伝える。いつものことなのだ。
TVに勇者の話題が出る、今日アレックスが行ってきた事はなにも報道されないのに、
人間の男を勇者ともてはやす人間達。
勇者にしか倒せない化け物も彼が倒したことになっている。
「本物の勇者はお前なのにな」
別にどうでも良いよ俺は、と言わんばかりに鼻の頭を掻くと、その豚獣人はまた一杯酒を飲む。
げっ獣人が勇者かよ、うひゃぁこりゃついてないわ、あちゃー
そんなことを思いながらプニ(5さい)は自分に与えられた使命のためアレックスに近づく。
「ずりーよなぁ聖剣の力でなんでもぱぱって解決、
比べて俺の勇者の力なんて気まぐれ過ぎてつかいものになんねーもん」
しょぼくれた顔をしてアレックスが愚痴っていると
「へーほんものさんなんだ」
ずいっと少女が彼の目の前に顔をつっこんでくる。
「誰だ君は、っていうかなんでガキがこんなとこいるんだよマスター」
マスターはさぁといったふうに肩をすくめる、
実際つい少し前までカウンター席には彼のほか誰もいなかったはずだった。
「プニはねーおにーさんをさがしていたのー」
「えーっと、ありがとう?じゃなくて、あのな、ここはちいさな子が来る場所じゃないんだ」
「プニはいい子だもん、ちいさな子じゃないもん」
「あーそうじゃなくて」
ぽんっと彼の肩をたたくマスターの顔を見てがくりとアレックスは肩を落とした。
それからは二人いつも一緒に行動するようになっていた。
アレックスがダンジョンに人捜しに来た時もいつのまにかプニが来ていた。
いやいやだけど勇者見つけたし色仕掛けしなきゃ!と
プニはいたるところで空気を読まずにセクシーポーズをする。
邪魔くさいなぁと思いながらそつなく進んでいく。
奥にいたボス的なオークは勇者力が発揮できず倒せなかったが、
さりげなく小脇に子供を抱えて助け出すのに成功。
「ゆーしゃさますごいのにみんなにじぶんがゆうしゃだよーっていわないの?」
「どこ見てそんなセリフがでるんだよ」
そうね、たしかに実力もなんにもあったものじゃないわ。無謀な馬鹿かそれともどっちなのかしら。
プニはそう思いながら服の裏の無数のナイフを取り出し隠れたモンスター達をこっそりしとめていく。
「ゆうきだけはりっぱだとおもうのよー」
「はいはい言ってろ、ったくガキに励まされるほど落ちちまったかね俺も」
途中迷ったりプニがはぐれたりしながら一夜ダンジョンの中で過ごすことになった一行。
「ようやくみつけたのよ勇者さまー」
「なんだよ夜ばいか?」
「えっちなのもいいけどー、いっしょにゆーしゃがんばりたいの」
「ふぅ・・・だから興味ないって、
それにどうせなら人間の方の勇者様のほうがいいぜ、金持ってるだろうし」
そんなことを話していると上の方で爆発が起きた、なにかのキャラバンがやられているようだ。
助けてくれ!とキャラバンの一人がやってくる。
どうするのかプニが聞こうとした時にはすでにアレックスはがけを登っていた。
「いつだって向こうからやっかい事が来るんだ、ついてないよホントに」
君の正義の定義、少し理解出来たかも。プニはにやりと笑う。
「ん?」
「なのー」
化け物を倒していると人間勇者が来た。
アレが本物の勇者様ねぇ、魂に神器の欠片もないじゃない
あーあれれ、あちゃー
「どうした?」
「あのこ魔剣さんくっついてやーなのねー」
勇者は化け物を剣に食わせ、こちらをギロリと睨み付ける。
「魔剣さんおなかぺこぺこなの モンスターさん呼んだのもたぶんあの子なのよ」
「妙に頭の中にノイズが走ると思ったらそんなところにいたのか、あ?
僕は聖剣の意志に従う神の使徒だ、邪魔なんだよお前」
人勇者はプニを見てよくわからないことを呟くと唐突に彼女に斬りかかってきた。
「なにやってんだてめぇッ!」
「さがれよザコ獣人、がんばったってお前にいいことなんか何もないだろ」
「勇者の力がいつ発揮されるかとかわからないし、俺よええけど、
だけど他人が傷つくのは見たくねぇんだ。いいこととか悪いこととか以前に嫌なんだよタコ!!」
奮闘空しくアレックスの剣が折れる、彼が飛び避けた先にフニがいて彼女をかばう。
「悪いな頼りない勇者さまでよ」
「ようやくみつけたのよ私の勇者さま、ほんものなのね」
光が二人を包みプニが消え豚獣人の手に聖剣が、
勇者力が全開になり斬りかかってきた人勇者の攻撃を弾く。
人勇者の魔剣も覚醒し一度に百の太刀がアレックスを襲うが、
聖剣の一降りはそれを全て消し飛ばし、魔剣を空にはじき飛ばした。
「わたしをなげて!」
その言葉に従い聖剣を魔剣に向かい投げる。
魔剣が禍々しい化け物に変化し始める中、
剣が龍に変身してブレスを吐いて剣を焼き尽くす。
剣が少女の姿になると、聖剣を憎々しげに睨んで消える。
全てが終わりダンジョンの外へ出る頃には夜が白んでいた。
そこにちょうど馬車が通りかかり、そこから一人の老婆が獣人の使用人と共に降りてくる。
「母さん!どうしたのこんなところで、体に触るよ!」
アレックスは彼女を見て急いでかけよる。
「やれやれアンタに心配されるほどもうろくしてないよ!ついでだから寄ってやっただけさね」
と言うと老婆はアレックスの頬を撫でて笑顔を見せる。口にくわえた長いタバコが妙に似合っていた。
「なんだかあの狼さんとってもお母さんのあつかいが親切なのねー」
「ヴァレンタイン・ルシュタット、
獣人解放運動のリーダーもしてたらしくて獣人の間ではちょっとした有名人でね
大好きな俺のお母さんさ」
やべぇこいつマザコンだ
「お母さん思いなのねーそんなきみも好きなのよ」
そういうとプニはニコッと笑った。
そのプニのその表情を見てアレックスは思わず顔を背けた。
「どうしたのー?」
「お、おれ他人からあんまり笑顔向けられたことなくて、それで」
「へーへー、それで?」
にこにこ
「だっだからやめろって」
アレックスはぐしぐし顔を擦っているが真っ赤な顔は隠しきれない、
プニはおもしろがって彼の周りをぐるぐるまわる。
「照れるんだよぉ」
「かわいーのねー んふー」
こりゃ好きですなんていったら月まで吹っ飛びそうだと思いながら
それは自分が本当の本当にこの半熟勇者に惚れきった
いつかの楽しみにとっておくことにしたプニなのであった。




