861回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 630 : 異端審問官 鷹津狂亮
僕はルガードと旧市街地の中心の広場に立ち山刀を引き抜く。
周囲をフレイムサーヴァントが取り囲み、そして眼前に異端審問官のスキルを持つプレイヤー、 鷹津 狂亮 が姿を現した。
彼はその手に棒の先端に棘のついた逆さのΩのような形の鉄の首輪がついた武器を握っていた。
中世ヨーロッパで使われていたマンキャッチャーという捕縛器具に似ている。
彼らの物は先端の返し部に刃をつけて槍のように使えるようにしたものらしい。
フレイムサーヴァントが僕達に一斉に襲いかかってきた。
その攻勢の合間を縫うように狂亮の攻撃が繰り広げられる。
武器の扱いが鋭い、ショウの動きに近いあたり彼からの師事を受けてきたのかもしれない。
戦いの最中僕は生命力探知で周囲を探る、やはり離れた位置に複数人の構成員が隠れている。
この人数に指示を出しながら戦うことは難しい、構成員に指示を出させながら戦っているようだ。
僕はルガードと目を合わせると視線で建物の高層階や周辺の瓦礫の影に敵の位置を示す。
彼はうなづきそちらに向かい走って行った。
彼の後を追うフレイムサーバントの群れを衝撃波の壁で蹴散らすと、僕に向かう敵の攻撃に神経を傾ける。
槍の最大の武器であるリーチを生かした突きを主体に、斬撃やフェイントを絡めた蹴り、そして合間合間にフレイムサーバントによる攻撃が挟まれ対処が難しい。
距離を取られるほど横槍の量も増え僕の不利になる、敵はこの戦い方で場数を踏んでいるようだ。
絡め手で距離を詰めるしか無い。
山刀を逆手持ちにして刀身が相手の視界に入らないように隠し、間合いを悟られないようにして槍による攻撃を体を捻って交わし、すかさず踏み込みながら切先を前方に出して脇腹を刺す。
瞬時に持ち手を返して薙ぎ払い攻撃を交わしながら袈裟斬りにする。
大罪魔法の出力は最低限まで絞っているが狂亮の表情を見るに半分以上はHPを削れたようだ。
ルガードが構成員を全て殺し、フレイムサーバントの動きも鈍った。
そして間合いは僕の有利だ。
一歩引いて突きを放つその切先を山刀の先端で弾いて逸らし、そのまま瞬歩で踏み込み小足払いで相手の態勢を崩しながら右脇の下から逆袈裟に斬り上げる。
致命の一撃、確実にHPを奪い斬り無力化できると思ったその時、刃が体に届く寸前に狂亮がニヤリと笑い周囲のフレイムサーバントが一斉に爆発した。
ジェノサイドクラススキルだ。
重力波による防御も間に合わない。
瞬間脳裏にベラベッカの戦いがよぎり、僕は全力で衝撃の大罪魔法を発動し斬撃と共に山刀から放った。
斬撃を中心に発生した衝撃波が下から上に向かう気流を生み出し、爆炎は僕を避けて気流に乗り狂亮に全て集中した。
炎が集中し火災旋風になり、狂亮を飲み込む地獄の様相になる。
「なんだよ、嘘だろ、おい」
彼は戸惑いながら声を漏らす。
HPが尽きても炎が消えない、燃え尽きたフレイムサーバントの炎が彼に復讐するように集まっていく。
全身を燃え上がらせながら狂亮は「ぎゃあああははははは!きゃははははは!!」と笑う。
彼は被害者の復讐を喜んでいるらしい、自分がこれだけ殺した事に快楽を覚えてるんだ。
「なんでこんな……」
とまどう僕の肩をルガードが掴み正気に戻す。
「まだ行けるか?」
彼は僕を憐れむような顔でそう言った。
「こっち側の人間かとばかり思っていたが、お前は違うんだな」
彼の言うこっち側っていうのは裏社会のことだろう。
命のやり取り以外に生きる術を無くして、それでも生きることを諦めなかった者達。
悪意の海に飲まれ、溺れないようにもがきながら、いつしか自分もその悪意に染まって行った者達。
決して救われることのない闇の住人達。
狂亮が燃え尽き、フレイムサーバントが物言わぬ死体に変わり果て、死が支配したこの街に雨が降る。
雨に濡れながら僕はルガードに笑顔を見せる。
涙が雨で隠れていればいいと、そう願いながら。




