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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
千の夜と一話ずつのお話
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87回目 鉄と炎と、悪魔と怪物 (小説家志望のおじさんは異世界へ渡った デミィ編)

85回目 小説家志望のおじさんは異世界へ渡った の前日譚です。

かつてその国は隣国との大きな戦争があった。

それは互いの国に大きな損害を出しながら最終的には両国の和平という形に終わった。


戦時中最も戦線に近かった田舎町を囲む深い森林の中に記者ブロワがいた。

彼は魔獣に襲われ死にかけていたところを熊の姿をした獣人デミィに救われ、彼の暮らす小屋にいた。

ブロワは茶を入れに行ったデミィの後ろ姿に向かって聞かれたわけでもなく話始める。


「この間の戦争で敵国に放たれた魔獣がこの森に生息してるはずなのに出てこない理由を探りに来た。

 戦時中から残された罠に加えた新しい痕跡の罠がある、

 人間向けの殺傷力のない子供のいたずらのような罠と、大型の動物でも致命傷を与えられるような罠。

 誰かが魔獣をこの森に封じ込めてるとしか思えない」


「暇な人もいたもんだね、どうぞ。お茶うけもなくて申し訳ないけど」


「この森のそばの町を戦地にした大規模な敵の掃討計画があったのを知ってるか?

 その作戦の主要任務を任された部隊が全滅したことも。

 その部隊に俺の兄貴がいてな、真相が知りたいんだ」


「そう・・・、そうか」


「出会ったものはみな死ぬと言われラームジェルグの悪魔と恐れられた男に率いられたその部隊はあの戦争で次々と戦果をあげた。

 ラームジェルグ隊があのまま存続していたら敵国軍が壊滅するほどに。

 ラームジェルグ隊の全滅と同時に敵国からの和平協定が申し込まれた。妙な話じゃないか?

 相手の戦力がそがれたなら一斉攻撃を仕掛けてもいいはずなのにそうしなかった。

 なにかの取引があったんだ、そしてその取引相手を敵国も恐れていた。だから取引を遵守したと考えるのが普通だろう」


「とここまで話してあんたの反応を見たかったんだけど。

 死んだ目をしていた奴が何かを期待するような顔をしはじめたな、思ったよりも状況は悪いらしい。クソ兄貴め厄介なことを頼みやがって。

 ん?なにか意外なことでも言ったかな。

 ああ俺が敵討ちか仕返しかなにかしにきたとでも思ったのか、あいにくと俺は博愛主義者でね、犯罪を犯してまで義を通すなんて割に合わないことも趣味じゃない。

 もう気づいてるはずだがあえて言うと俺の目的はあんただ。

 ラームジェルグ隊を一人で壊滅させた男、あんたについてはありとあらゆる憶測と逸話がある。

 文屋にとっては金脈みたいな存在だよ。

 ようやく接触できた、あとは掘り出すだけだ」


「失望したか?」


「いや、君の兄さんは良い人だったんだ。だから・・・」


「言ったろ俺は博愛主義だ、ありとあらゆる人間はクソ以下だって理解してる。

 だから他人のあらゆる罪に寛容なのさ。

 俺は兄貴がクソだったと思うし、だからあんたに対して恨みとかもない。

 あんたもクソだし俺もクソだ、だれが他人の後ろめたいことを責める権利があるっていうんだ?」


「弟に手を焼いてるって言ってたなぁ」


「その方が可愛げがあっていいもんなんだぜ家族ってもんは」


「戦乱を解決するために英雄が現れるが戦乱が終わったらそれはどこへいくと思う。

 答えは一つ、英雄のために戦乱が生み出される。そして同じことの繰り返しだ。

 彼はひとりの人間というよりも組織によって作り出された一つの装置だった。

 自壊機能を組み込まれた戦争の装置、それがラームジェルグ隊。

 僕はただ生き残っただけの臆病者だ」


「自由のために死んでくれと言われたよ。民衆を戦争から解放するために」


「死ななくて正解だったな、少なくとも戦火はもうないだろ」


「君の兄さんは僕を逃がさなければきっと生き延びられたんだ」


「それはきっと頼みたいことがあんたにあったからだよ」


「僕に?」


「言ったろ、兄貴はクズなんだよ。あんたに借りを作って断れないようにしたかったのさ。

 隣国が取引を遵守した本当の理由をあんたに渡す必要があってね。

 まず会っておく必要があった。

 町の宿屋で預かってもらってる、一緒に迎えに行こう」


町に向かう際にデミィは全身を布で覆い隠していた。

その国に魔獣と化す可能性のある獣人の人として生きて行ける場所は少ない。


デミィが宿屋でそれを見たとき息をのんだ。


「なぜ人間には理由が必要なんだろうな。

 俺は兄貴の事に関してそれでも落としどころが必要だと考えてしまう、あんたが窮屈そうな生き方をしているのをみると余計にそう思うよ」


そこにあったのは残酷な理由だった、この戦争を本当の意味で終わらせるための醜悪な罪。

戦争を止めなければならない圧倒的な理由。

敵国側の王家の証である琥珀色の瞳の赤ん坊。

それを見た瞬間デミィはすべてを理解した。

ラームジェルグ隊でもし言われた通り全員死んでいたとしても、その装置を使っている側の人間が残っていれば英雄としての機能がそちらに移譲されるだけだということを。

自分のたった一人の親友はすべての名目を奪い取り、デミィに押し付けることで解決を図ったのだ、その命をかけて。


人生を奪われた赤ん坊にどう向き合ったらいいかわからず、デミィは恐怖に震え上がった。

そんな彼にブロワは赤ん坊を抱かせると指を赤ん坊の前に差し出させる。

赤ん坊は彼の指を掴むとにっこりと笑った。


「兄貴に対して負い目を感じてるなら、この子を幸せにしてやってくれないか。それをあんたの自分を許すための理由にしてほしい」

あとこれな、そういってブロワはいつ小屋から持ち出したのかデミィが書き続けていた小説を取り出した。


「これ戦争の時のあんたの体験談だろ?」

「あいつが言ったんだ、たった一つだけ歯を食いしばって意志を貫くべきことが僕にはあるって。

 あいつと戦地で出会った子供たちが僕の書く話を面白いと言ってくれた、書いて見せた以上はそう言ってくれた人を裏切っちゃいけない。

 誰がなんと言おうとお前は続きを書き続けなきゃいけないって」

「死んだ奴に読ませるために続きを書いてたってことか、律儀すぎるよなあんた。

 せっかくだ、もっとたくさんの人に読んでもらいたいとは思わないか?」

「この子との生活が落ち着くまで返事は待ってもらえるかな、少しだけ時間が欲しい」

「ああ、返事はわかってるけどな。あんたの口から聞くまでは保留しておいてやるよ」


それからデミィは赤ん坊のウィルと共に暮らし始めた。

ウィルとの生活の中でデミィは新しい物語が書き始められるようになっていった。

今だ毎晩過去の出来事を悪夢に見る生活は続いていたが、朝目覚めるとそばにいるウィルの存在が彼の心を少しずつ癒していた。


小説のタイトルを考えブロワに手紙で伝える事、それが掲載の承諾だと彼から言われていた。

デミィはタイトルを書き手紙を出すと、泣き始めたウィルの元へと慌てて駆け出して行った。

その物語のタイトルは・・・。

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