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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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857回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 626:マニューバーウォーフェア

僕達は異端審問官と彼が率いる瀑岺会構成員、獣人ミイラ軍団を相手に機略戦を仕掛ける事にした。


この作戦は「突破、迂回、包囲」という攻撃機動の三方式に重点を置いて行われる。


敵陣に切り込んで分断させ。

分断され混乱した部隊に集中。

敵部隊の前方を塞ぎ、退路を封鎖、しかる後に側面から高火力部隊による攻撃を仕掛けて撃破する。


相手が普通の戦力ならこれで対処可能だ、だけど敵側にはイレギュラーがある。

ミイラの死体の爆弾化、そして一騎当千のプレイヤーの存在だ。


ティタノマキアのジョブは多岐に渡り、スキルツリーによる育成分岐も加えるとその派生パターンは途方もない数になる。


なので僕もそういうジョブがあったという情報までは知ってても、それ以上はわからない事が多い。


瀑岺会のプレイヤー達は味方にも手の内を隠し、あわよくば出し抜こうとする環境だったため、紗夜も異端審問官のプレイヤーの能力を全て把握しているわけじゃないらしい。


ただ 道士(タオシー)黎雪玲(リーシューリン) に関しては別らしく、紗夜はよく彼女にスキルを使った喧嘩をふっかけられていたため能力を熟知しているらしい。


そんな理由から紗夜には伏兵として立ち回り自警団の援護を行いつつ、雪玲の対処を任せることにした。


ショウはまだ信用を置くには危うさを感じるが、自由にしておくのもリスクがあるため監視しながら一部エリアを彼一人に一任した。


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--

-


瀑岺会との戦闘の最中、ショウが意図的に心を開いて知覚を共有してきた。


障害物を使った完全に死角からの攻撃。

瀑岺会の構成員は何が起きたか理解すらできずに死んでいく。もちろんショウに殺されたとすら気づかれない。


彼の縄鏢は縄を操作して細くすることでどこまでも伸びるらしい。


縄から分離した斬糸鋼線が切り裂いた穴を使い、壁や上層の意識外からの致命の一撃が次々に命を奪って消える。

独壇場だ、彼とは障害物まみれの街中で戦いたくない。


視界に入ってない敵の位置を全て把握し、そちらを見ずに敵を次々に殺していく。

まずは目となる構成員、その次はミイラ達。それにより爆破のリスクを避けているらしい。


戦いながら周囲を見回し戦況や敵の動きを把握、そつなく味方のフォローを入れて恐ろしい速度でフィールドを支配して行く。


これでプレイヤーのスキルなしってことは前の世界の現実でもこれができたってことだ。

ソウハと戦ったあの時に彼がいたらと思うと寒気がした。


彼は鏡に向かい僕を嘲笑するように肩をすくめて見せた後鏡を割って意識から僕を締め出した。


はっとなり生命力探知をすると、彼のいるエリアの進行速度が早すぎて周りのエリアの攻勢が間に合っていないのがわかった。


「遅すぎるな、俺に気を取られてる場合か?」

彼はそう言いたかったのだろう。


もちろん彼の独断専行による行軍速度の加速は問題なのだけど、それにあわせられないようじゃお粗末すぎるという挑発なのだろう。


僕は気を引き締めて各メンバーのルート変更や攻撃目標の変更を伝えて流動的な戦場の指揮を整えながら進んだ。


-----


その後雄馬が作戦を進め、包囲網が確立し、異端審問官のプレイヤー 鷹津(たかつ) 狂亮きょうすけ が焦り始める頃合いを見計らいショウが動く。


意図的に行軍速度を乱すことで雄馬がその尻拭いに集中し、ショウから意識を逸らす目論見は成功していた。

雄馬の気配はショウを追ってはこない。


彼はその場を構成員に任せて、旧市街地から脱出しようとしていた狂亮の背後をとる。


狂亮は元の世界で殺人を配信して死刑になった、その発端は彼に対するリンチによるものだった。


些細なきっかけで広まったいじめの輪は、学校における狂亮の存在を悪と規定し、それまで親しかった彼の友達も加わる陰湿なものになっていった。


ある日山の中で暴行され命の危険を感じた彼は、隠し持っていたナイフでその場にいた友達と他二人を殺し、その死体を山中に埋めて隠した。


その後狂亮は自分の罪が明るみになり、裁かれる事に怯えて暮らした。


しかし彼は誰にも責められず、学校でのいじめもいじめの主犯格の失踪でぴたりと止んだ。

その経験から狂亮は自分の犯した罪を天命と理解した。


いつでも他者を殺せるようにナイフを持ち歩き、危害を加えられれば即座に殴り自信をつけた彼は誰からも軽視されることはなく、彼の間違った確信は深まっていった。


彼は天命の意味を求めて、自分が悪だと思った人間を殺して埋め、その経緯を配信し始める。


彼は配信の最中幾度となく「俺は無敵だ」と虚勢をはり優越感に浸りながら犯行を繰り返した。


視聴者の反応が嬉しくて犯行はより残虐に派手になっていったが、その自己顕示欲の影には彼の抱えた孤独があった。


こちらの世界に来た彼はソウハに出会い、彼の体から発せられる死の気配にあてられソウハを殺そうとした。


しかしソウハが狂亮を一瞥すると、彼は自分でも理解できない感情に支配された。

狂亮は自身に天命を与えていた神とついに出会ったのだとそう思った。


ソウハは彼の孤独を受け入れ肯定し、狂亮はソウハという神のための異端審問官としての人生を歩み始めた。


本物の神からくだされる天命に従う神の使徒、彼はソウハと出会ってから偽りなく自身が無敵だと確信してきた。


「だがお前は無敵なんかじゃない、友達のいない孤独な子供だ、本当は理解しているんだろう?」

逃げようとしていた狂亮にショウタイフォンは悪魔のように囁きかける。


「お前はソウハを慕っているが、役に立たない手駒は彼には相応しくはない。そうは思わないか?」

ショウの言葉は錆びたナイフのように狂亮の心の柔らかいところを抉り、壊していく。


今の狂亮の存在の価値はソウハの元で彼の側近としてその権威を示すことだけだ。

ソウハに捨てられてしまえば、彼にはもう生きる意味はない。

彼の存在意義はソウハに対する心酔で腐り果てていた。


「認められたいなら奴を殺すしかない、山桐雄馬だ。あいつは今お前の罠の中心にいる。やるなら今だ」

ショウの言葉が狂亮の耳から入り、脳に食い込み思考を汚染していく。


たしかにジェノサイドクラススキルの発動で形成を逆転するチャンスはある。

しかしそれは自分が与えられたこのエリアの人間を皆殺しにする事を意味する。

そして切り札を使ってなお敗走すれば、狂亮は瀑岺会にいることは出来なくなるだろう。


「……まぁもっとも役立たずのお前には無理な話かもしれないがな」

ショウのその言葉が狂亮のプライドまで刺さり、彼は絶叫と共にジェノサイドクラススキルを起動する。


ショウはその様子を見てニンマリと笑みを浮かべるのだった。


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