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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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854回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 623:山猫のフェリス

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雄馬とフェリスのやり取りの後、アジト内の若いマフィア達が彼の事を話していた。


みんなからバカにされてるから認められたがってるだとか、腰巾着とか、おこちゃまフェリス、ビビりフェリスなど散々の言われようだ。


しかしその中の一人が「ルガードの汚点」と口にした事で、雑談していた全員が顔を毛をそば立たせて眼を見開く。


「おいそれは禁句だぞ…」


「かまやしないって事実だし」

 ルガードの汚点と口にした若いイタチ獣人はヘラヘラと笑いながら言うが、彼の後ろに近づいた人影には気づいていない。


 その人影の正体を見た若いマフィア獣人達は青ざめた顔でご機嫌取りの引き攣り笑いをする。

「いやお前、後ろ…」


「はん?」

 イタチ獣人が振り向くとそこには修羅の如き形相のフェリスがいた。


「カチンと来たぜ」


 彼はそう言うとその場にいた獣人を一人残らずボコボコにして、鼻血とあざまみれの獣人達を服従させた。

 腹を見せて詫びる彼らをつまらなさそうに睨みながら吐き捨てるようにフェリスは口を開く。


「救われた恩があんだよ、俺がルガードの汚点になってちゃカッコつかねえだろうが」


「は、はい!その通りです」


 態度を急変させ媚を売るイタチ獣人に顔を顰め、フェリスは彼の横面を蹴り飛ばす。

 イタチ獣人は壁に叩きつけられ白目を剥き、泡を拭きながら痙攣しはじめた。


「ひぃ!」

 若い獣人達はその光景に震え上がる。


「次にルガードの悪口を言ってみろ、ぶっ殺してやる」


 凄むフェリスに獣人達は首を千切れんばかりに縦に振った。


 フェリスはルガードを庇って死んだ男の一人息子。

 元々内向的な性格で引きこもっていた彼が、孤児になるところをルガードに養子にされ、生き方を教えてもらった過去がある。


「ルガードが俺の世界を開いてくれた、だから俺はその恩に報いてえ。

 その為なら何でもする、逆らう奴は全員ぶちのめす」

 彼は自分の覚悟を確認するように、自らの手を見つめそれを握りしめながら口にする。

 そして彼は殺気に満ちた目で雄馬を睨む。


「……気にいらねぇぜ山桐雄馬。

 魔王候補者だかなんだかしらねえが化けの皮ひっぺがしてやる」


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 騒動の後、僕はアジトから少し離れた川にいた。

 ルガードが一人で水浴びをしてくると言ってでていったのが心配で隠れてついて来たのだ。


 物陰から水浴びをする無防備な彼を見守り、川から出て来て半裸の彼をみる。


 毛皮の濡れたルガードは年齢もあって痩せこけ古傷だらけの体が限界に見える、みんなを守るために無理をしてるのかもしれない。


「妙なこと考えてねえだろうなガキ」


 彼を見つめていた僕にルガードは冗談めかした笑顔で言う。

 僕は思わず顔を赤くして眼を背けた。

 どうやらバレてたらしい。


「一人で水浴びしにいくと言えばお前がついてくると思ったが、まったく呆れるほどお人よしだな」


 僕を連れてどこかに出かければ他のメンバーがついて来てしまう。

 つまり彼は僕と二人きりで会話したいと思っていたらしい。


「余計なお世話はほどほどにしろ、人間の力を借りるってだけで難色示してる奴らばかりだ、いつ暴発するともわからねぇ」

 服を着ながら僕に近づきつつ彼は言った。


「お手数かけます、でも後悔はさせませんから」


「口先だけじゃねえと良いんだがな」


 そう言って彼は僕の頭をわしわしと撫でた。

 その優しい力加減が心地いい。


 どうやら僕を心配しているみたいだ、ただの子供には重荷すぎると思っているらしい。

 良い人だ、絶対に死なせたりしない。


「帰ったら腹ごしらえと行きたいが、少しのワインと食った気のしない乾パンくらいしか出せん。すまんな」


「それについてはいい考えがありますよ」

 僕は笑顔で答える。


 アジトに戻った後僕は琥珀のダガーでキノコと山菜と米、それにデザート用のフルーツを作って、調味料は紗夜に出してもらい、キノコと山菜のリゾットを作り。


 デザートにはサイコロ状にカットしたフルーツ盛り合わせにワインをかけて、サングリア風のフルーツポンチにした。


「助けられた例に飯を出すつもりが、逆にご馳走になっちまったな。

 それに残りわずかなワインじゃなんのたしにもならねぇと思っていたが、まさかこんな洒落た食い物に化けるとは」

 ルガードは驚きながら舌鼓を打つ。


 アジトの中の人たちもどことなく活気に満ちた様子だった。


「有り合わせのものでなんとかする、些細だがそれを証明できたことでこの場の皆の士気が上がったようだ。さすがだな」

 ブラドは感心したように僕に言った。


「そんな大した事してないし、褒めすぎだよ」


「みんなの顔が明るくなったのです、雄馬様は凄いのです」

 アイリスも満面の笑みでデザートを食べながら言う。


「参ったな」


 誉め殺しにたじろいでいると紗夜が口を開いた。


「わかるわよ、期待されるのが重たいって気持ち。でも背負うって決めたんでしょ」


「…そうだね、みんなの希望を叶えてみせるさ」


 そう応えると、どこかで食器を叩き割る音が聞こえて騒然となった。


「人間の作る飯なんて食えるかよ!」

 どうやら一部のグループが暴れて皿をひっくり返したようだ、その中心には先ほどのヤマネコ獣人のフェリスの姿があった。


「こんなもん毒が入ってるかも知んねえ。

 食いもん探しに行く、人間なんかといたくねえ奴らは俺たちについてこい」


 フェリスは少数のグループを作り僕を不快そうな顔で見た後に去っていった。

 そんな彼を見てルガードは「ふむ…」と小さくため息をつく。


「フェリスの奴気持ちばかり空回りしちまっててな、素養はあるんだが評価ばかり気にしやがる。親と比較されやすいのを気にしてるらしくてな」

 ルガードはそう言ってワインをあおる。


「あいつは普通に生きるべきだったのかもしれねぇ、俺みてぇなヤクザ者が子供を預かるなんて真似するべきじゃなかったのかも。そんな女々しいことまで考えちまうんだガラにもなくな」


 ルガードはふと年齢相応の顔をのぞかせた。

 これが彼の親としての素顔なんだろう。

 自分が親として相応しい事ができているかどうか、フェリスの事が心配なようだ。


「きっと彼はルガードさんのことが大好きなんですよ。その事を伝えたくてやり方が分からなくて全身で何にでも飛び込んじゃうんじゃないでしょうか」

 僕は彼に寄り添えるように柔らかい笑顔で言う。


「きっとそのうち彼なりの道を見つけると思います。だからあなたとのつながりを間違いだったなんて言わないであげてください」

 僕の言葉にルガードはキョトンとした顔をして、破顔一笑した。


「ははは、こりゃ参ったな。たしかにお前さんには人を導く力があるらしい」

 彼はまた気力に満ちた指導者の顔に戻った。


「山桐雄馬、俺たちに力を貸してくれ」

 ルガードはそう言って手を差し出す。


 僕は彼の手を握り「全力で答えます」そう言って固い握手を交わした。

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