849回目 地獄の炎
悪魔に対抗する為に人々が魔法の力を使う世界があった。
しかし魔法の力を使う為には世界に小さな穴を開けて 地獄の炎 を引き出し、それを触媒にしなければならない。
魔法を使うほどに使用者は地獄の亡者に近づいていく。
そして魔法使用後に飛び散る火の粉のようなエーテルにより世界が汚染されて、地上も地獄に近づいていく。
300年前に滅びた魔法種族の残した遺跡に若き考古学者オルフェと彼の助手であり恋人リディスの姿があった。
石板に魔法印を書いて扉を開いたりしながらオルフェ達はダンジョンの最深部にある古代遺跡を進んでいく。
彼の調べでは、魔法種族の到達した技術を用いれば、世界を地獄に書き換えることで自分の意図した世界にできる。
それによって魔力汚染地域が生成され、その空間を支配する悪魔の正体が魔法種族、
クリーチャー達は改変された動物や人間達である可能性が高く。
オルフェはその先に何者かの企みの影を感じ取っていた。
儀式場で制御盤を操り周囲の魔力汚染地域の浄化に取り掛かると、
オルフェは突如現れた悪魔に腹部を刺し貫かれてしまった。
悪魔は自らを地上の正当なる支配者と名乗る、しかしそんな悪魔をリディスは笑った。
「貴様らなど模造品に過ぎない、ただの亡者だ」
悪魔はそう言う彼女の正体に気づき逃げていく。
「君は一体…」
オルフェは息も絶え絶えにリディスに問う。
オルフェは一度死んだが、
地獄から来た本物の悪魔の魂を持つリディスが悪魔の人格を発現させ、
オルフェの魂を心臓ごと引き摺り出して「復讐者の剣」に作り変える。
リディスは蘇生したオルフェに語る。
復讐者の剣に先程悪魔を名乗った「 偽証者 」の魂を取り込むことで本物の悪魔になれる。
そうすれば死の運命を覆しリディスと添い遂げる事ができると誘惑される。
戸惑うオルフェの前にデーモンが差し向けた魔物が押し寄せてきた。
オルフェはリディスを守る為にとりあえず眼前の魔物達に深い闇色をした復讐者の剣を振るう。
オルフェは魔法も使えないのに、黒剣で魔物を倒せてしまった。
それどころか剣に魔物の血と魂が染み込んで、
魔物が使っていた炎や毒の魔法を剣から放つことができた。
そして剣が成長するほどに体が軽く強くなっていく。
これはたしかに使う程悪魔に近づく魔剣だと
オルフェは自身に染みついた魔物の力に怯えながら覚悟を決めるのだった。
悪魔や魔物を倒すには「鍵」を使い魔法を使う必要があった。
魔法使い達は、ある程度の任期を経るか、
審問官の定期チェックをクリアできないと悪魔化の兆候ありとして処刑される。
悪魔への対抗手段は魔法しかなく、それにより魔法使いは絶大な権力を与えられ、
貴族として領主の地位を与えられるものも多く、子供も代々魔法使いになっている。
そんな彼らにとって魔法を必要とせず、勢力に所属しないオルフェの存在は目障りになっていく。
大海の世界
雷霆の世界
砂塵の世界
獄炎の世界
氷鎖の世界
この世界には主に五つの広大な 魔力汚染地域 が存在していて、
その爆心地にはモンスターの発生源となるハイヴと呼ばれるダンジョン、
そしてその最下層には古代遺跡が存在している。
オルフェはデーモンから世界を解放するためハイヴを撃破していくが、
それは現在の社会システムを破壊することに等しく、
権力を失った魔法使いが殺されたり、国が崩壊し社会が壊れていく。
オルフェは社会の敵として追われる中、
人類社会の権力システムがデーモンにより作られ制御されていることを知る。
デーモンが真なる悪魔に転生する為に人間側の魔法使い達に技術の提供と教団やギルドの設立、
社会システムの構築などが行われていた事、
人類が彼らによる秘密結社により支配されている家畜の生贄の羊である事がわかる。
ダンジョンの攻略をして遺跡を破壊しなければ、各地に仕掛けられた遺跡による仕掛けで
最終的に人間の魂を燃料にして世界が地獄に変えられてしまう。
国民のために戦っていた魔法使いや
自尊心が高く他者に操られるのが気に食わない魔法使い
それに孤独に戦うオルフェに対する尊敬や友情から仲間になるもの達も現れる中
亡者化してデーモンの傀儡と化す魔法使いの国なども入り乱れ状況は混迷を極めていく
そんな中この世界に人間の姿に偽装した、地獄から来た3人の本物の悪魔がいる事がわかる。
一人目は
地獄から地上に現れ、古代人類に魔法技術を与えた後に封じられ、
その後転生の形でリディスの魂に寄生し受肉したレヴィン。
彼はリディスとしてオルフェと恋愛関係をしていくうちに愛を知り、
自身の中のその甘美な欲望の正体を知りたがる。
二人目は
神に課せられた地獄の掟を破ったレヴィンを処刑するため追いかけ地上に出たが、
面白いから地上をかき回して遊んでるブルトゥーム。
彼が魔法使いの技術を人間に与えて殺し合わせていた。
三人目は
同じくレヴィンを処刑する役目を負いブルドゥームの補佐役として地上に来たが、
地獄での勢力争いで上に立つ為に亡者が大量に欲しくて
大量の人死にが出るように戦乱を起こすバルサゴス。
彼が人類の政治形態を構築、影から操っていた。
つまりデーモンの仕掛けた人類の家畜化計画は、
彼らの中に潜伏していたブルトゥームとバルサゴスにより進められたものでもあった。
レヴィンを殺すという任務とおもちゃや道具を奪われることを嫌った
ブルトゥームやバルサゴスからの攻撃も受け始める。
その戦いで人類の社会は修復不能なダメージと終わることのない戦火に巻き込まれ、
加速度時にデーモンの計画が最終段階に近づいてしまう。
デーモンを支配下に置いているつもりだったブルトゥームとバルサゴスだったが、
実はデーモンは彼らに従うふりをしてその魂を取り込むための仕掛けを古代遺跡に組み込んでいた。
その結果オルフェに倒された二人はその魂をデーモンに喰われてしまう。
人々の魂と悪魔の魂を得たデーモンは強大化し、その力は神をも凌駕しようとしていた。
彼らの本当の目的は悪魔になることではなく、
悪魔を超えて神を殺し、新しい神になることだったのだ。
彼らは一つの塊に結集し、レヴィンを取り込もうと襲ってくる。
魔法使いの仲間達と共にオルフェはデーモンとの最終決戦に挑む。
デーモンを殺したオルフェは世界を救った。
しかし莫大な量の魂と悪魔2体を取り込んだ彼はすでに人間ではいられなくなっていた。
レヴィンはリディスの体を離れ青白い人型の炎になるとオルフェに提案をする。
レヴィンに全ての魂を押し付けて殺すことで、
復讐者の剣の魔法は解けて、オルフェもリディスも解放される。
それを聞いたオルフェはリディスに「許してくれるか?」と問う。
リディスはオルフェに優しく微笑みうなづくと、
二人はレヴィンを挟んで手を取り合い抱きしめ合う。
レヴィンはその時理解する。
「…これが愛か」
二人が自分との友情のため地獄に落ちる決意をしたことで愛を理解したレヴィンは、
悪魔という本質を失いその存在を消滅させていった。
復讐者の剣は光に溶けてオルフェに戻り、
後に残ったのは崩壊を免れ闇に包まれていた世界に優しく差し込む陽の光だけだった。
魔法も魔物も悪魔もいなくなった世界で、
仲間の魔法使い達は新しい世界の秩序を求めて日夜奔走し。
オルフェとリディスは穏やかな生活の中で玉のような赤ん坊を授かった。
二人は懐かしい雰囲気のその子供に、恩人の名であるレヴィンと名をつけるのだった。




