847回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 619: 道士、黎雪玲
次の街はモンスターの自治区、つまり獣人たちの街だ。
そこにいるのは、異端審問官のジョブを持つプレイヤーらしい。
彼は元は配信者。
架空の殺人事件の犯人目線で犯行を進める、というモキュメンタリー配信が流行っていた時期に、殺害方法や死体遺棄のリアリティの高さから人気を博していた。
ある日彼のファンが配信の山の稜線から場所を割り出して聖地巡礼し、イースターエッグを期待して死体の埋まってるはずの場所を掘り返したら本当に死体が出てしまった。
今までの犯行が全て本物だったと明るみになり、彼は死刑になった。
彼は現実を認識する能力が欠落し、自分は無敵だと思い込んでいる。
死刑の時ですら自分が死ぬとは思っていなかったらしい。
という事を道すがら紗夜から説明を受けた。
「そんな奴だからお目付役として私がついてるってわけ」
屋根の上から僕らにそう話しかける声に、僕と紗夜は身構えた。
「道士の 黎 雪玲 、瀑岺会のプレイヤーの一人よ」
紗夜は屋根の上にいた女の子を見て僕に耳打ちした。
「二人相手ってことか、厄介そうだね」
「頭数で言えばこちらは自由にアバター化できるプレイヤーが二人よ、ショウにやる気があれば、だけど」
ショウは我関せずと言った様子で興味なさげに本を読んでいる。
「やだなぁお姉ちゃん、私があんな奴のために戦うわけないじゃん。真面目なお姉ちゃんとは違うんだからさ」
雪玲が紗夜をおちょくるようにいうと、紗夜は不快そうな顔をした。
「その呼び方、止めるように言ったはずよ」
「中国では親しい年長者を兄や姉って言う文化があるの、そんなんじゃこの世界での異文化交流難しいんじゃない?」
雪玲は紗夜の反応を楽しむようにニヤニヤ笑いだったが、アイリスを見て急に顔が嫌悪感に歪む。
「ふーん、代わりが見つかったから 彼 はもういらないんだ?」
「なにを言ってるの、私は彼をソウハのところに案内してるだけよ。無駄口を叩いてないで仕事したらどう?」
「うるさいなぁ、時間稼ぎは終わったからもういいや」
雪玲はめんどくさそうに言うと、紗夜を見てニヤリと笑う。
「再見 紗夜お姉ちゃん、つまんない死に方はしないでね?」
そう言いながら彼女は"なるべく苦しんで死んでくれ"と言うような邪悪な顔をして去っていく。
彼女がいなくなると建物の影から無数の包帯に包まれたミイラ獣人の集団が現れ、周囲を囲まれてしまった。
「この包囲網を作るための時間稼ぎか」
「ふー……あの子らしいわね」
「こいつはいっぱい食わされたな」
ショウはそう言うとフンと笑う。
「面倒が嫌いな子だからなにか企んでいるとは思っていたけど、ごめんなさい私の責任だわ」
申し訳なさそうに言う彼女に笑顔で返し、ブラドに目配せをすると彼もうなづき臨戦体制に入った。
「お互い様だよ、サクッと片付けちゃおう」
僕は山刀を抜いて構えを取った。




