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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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843回目 リザードキング

ある朗らかなハイキング日和の森の中、房村ナオという青年が小鳥を探して歩いていた。


会社をクビになり傷心を癒そうと始めたバードウォッチング、

写真で見るのと違い鳴き声や気配、森の空気の中で美しい様々な鳥を見る異世界のような光景はナオを夢中にさせた。


夢中になりすぎたナオはカメラを片手に森の奥まで踏み込んでいく。

スマホのGPSがあるからよっぽど大丈夫だろうとタカを括っていた彼が、

一抹の不安を覚えてスマホを見るとGPSが狂っていた。


ナオは内心焦りながらも記憶を辿り戻っていくが、

無情にも森に霧が立ち込めて視界がなくなってしまう。


下手に動いたら余計に迷ってしまう。

そう思ったナオは木のウロの中に隠れ、霧が晴れるのを待った。


聞こえるのは彼を不安にする不吉な鳥の声や、凶暴そうな獣の呼吸音と足音。

疲れ切ったナオはいつの間にか眠ってしまっていた。


目を覚ますと霧は晴れ、ナオは慌ててウロから出た。


しかし周囲を見渡すと様子がおかしい。

見慣れない奇怪な植物、聞きなれない鳥の声。

カメラを向けてズームすると、頭が2個ある人面鳥がこちらをみてゲラゲラと笑う。


驚いて腰を抜かしたナオだったが、もしかして異世界転移なのか?と気づく。


その後の彼は呑気に森を散策していた。

理由は異世界転移ものだと素敵な女の子との出会いがあり、良い感じの展開で助かるからだ。


きっと自分もいい感じに助かるに違いない。

ナオは無根拠にそう思い、出会に期待しながら森を歩く。


歩く。

まだかな?


歩く歩く。

なんかやばくね?


そうこうしているうちに数日が経過。

ナオはボロボロで食料もない。


水はなんとかサバイバル知識で川の近くの土を掘って、染み出した水を飲みやり過ごした。

しかし植生が違いすぎてどれが食べられる木の実か見分けがつかない。


ナオは木の枝をナイフで削って粗末な槍を作り、

無駄なあがきとは思いながらも魚獲りに挑む。

そんな彼の背後に黒い人影が現れた。


「なっ?」

気配に気づいた頃にはナオは背後から押し倒され、首元に槍が突きつけられていた。


彼を組み敷いていた人影は体表を鱗で覆われ、部族服と装飾に身を包んだ爬虫類人間。


「リザードマンだ…」


リザードマンといえばRPGでも定番のモンスター、

話なんて通じるはずもなく人間を襲って殺す、倒すべき敵だ。


しかしナオはRPGの主人公みたいな筋骨隆々のタフガイではない。

文化的な趣味の華奢な現代人、手には魚すら取れない粗末な木の槍。


「うぅっ」

ナオは悲しくなって両手で顔を覆って泣き出した。


「……なぜ泣く」


ん?今のはリザードマンの言葉か?と思ったが、パニック状態のナオは絶望に沈んだままだ。


「何もいいことない人生だったからですぅ。せめて苦しまないように殺してくださいぃ」


ナオは思ったことを素直に言った。


彼の人生は何一つ上手くいかない。

告白すればキモいと罵られ、志望校も全て落ち、会社をクビになった傷心を癒すために始めたバードウォッチングでこんな目に遭う。

ナオはもう何もかもが嫌になっていた。


リザードマンはそんなナオの態度に深くため息をつき、彼を肩に担いで歩き出した。


「村で丸焼き?生きたまま食べられちゃう?やだぁあああ!」

駄々っ子のように暴れしくしく泣く彼をリザードマンは村に運び、全身を洗い、部族服を着せて、鍵のかかる小屋に入れて食い物を渡した。


ナオはパニックで自分がどう言う状況か理解できず泣き続ける。

リザードマンはそんな彼に首を横に振りながら食事を食べさせた。


それから数日後。


「なんか、意外と快適に暮らせてるなー…」

ようやく落ち着いたナオは、あっけにとられながら呟く。


「ナオ、飯だぞ。今日こそ自分で食え」

そう言ってリザードマンが飯を持ってきてくれた。


「ありがとうウォード」

ナオは慣れた様子で彼に礼を言う。


リザードマンは自身の名をウォードと名乗った。

彼はナオを拾いこれまで甲斐甲斐しく世話をしてくれていた。


まともな返事が返ってきたことにウォードは驚いたが、

ようやくナオの介護から開放されることに安堵した様子だった。


「俺いつ食われるの?」


飯を食いながら尋ねるナオにウォードは「まだ言ってるのか」とため息をつく。


「襲いかかったのは謝るが人族と戦争中なんだ、我々に人族を食う文化はない」

と彼は10回目の説明をした。

これまでのナオはパニックでウォードが話した9回分の説明は聞こえていなかったのだ。


彼が言うには閉じ込めてるのもスパイの疑いがまだあるかららしい。


人族がリザードマンをさらって労働奴隷にしたり娯楽で殺したり食っている。

最近ではリザードマンを奴隷家畜にするための大規模の狩りをしようとしてるのだという。


あまりにナオの生活になじみのない話で、

そんな事を聞かされてもナオはあまり現実とは思えず反応に困った。


「それにしてもお前みたいに情けない人族は初めて見たぞ」


「情けなくて悪かったですね」

あっかんべーをしながらナオは返す。


「森に迷って死にかけてたんだから仕方ないでしょ」

と不貞腐れて言うナオにウォードは苦笑した。


「しかしリザードマンの言葉がわかる人族もお前が初めてだ、我らとこうして普通に話す者もな」と彼は笑う。


そういえば異世界のしかもリザードマンの言葉がわかるなんてなんでだろうとナオは不思議に思った。

考えた所でわかる事でもなし、ナオは転移物でよくある転移サービスの翻訳能力かもしれないとざっくり理解する事にした。


それにしても彼の言った話が本当なら人間なんて毛嫌いしてもおかしくないはずだ、

それをこうしてお荷物でしかないナオの面倒を見て、交流を喜んでもくれている。


「ウォードって良い人だね」

笑顔でそう言うと、ウォードは少し驚いた顔をして、はにかみながら顔を赤らめる。


「懐くな」

ぶっきらぼうに言いながら彼は尻尾を嬉しそうにパタンパタンと振るのだった。


-

--

---


その日の夜、ナオが更け月を眺め物思いにふけっていると、

なにやら里が騒がしくなり外が明るくなった。


「なんだろ、祭りにしては物々しいような」


彼が外の様子を見ようと小窓に近づくと、突然扉が乱暴に蹴り開けられた。


「えっなに!?」

ナオが何事かと驚いていると、扉をけ破ったウォードが険しい顔で「里が襲撃された」と言った。


ウォードはナオを里から少し離れた場所に連れてきて、

周囲の安全を確認すると「お前とはここでお別れだ」とナオに言った。


ウォードの不安と勇気が同居したような、死を覚悟している表情にナオは動揺する。


「そんな、俺まだウォードになにもお礼できてないのに。

なにかできることがあったら言ってよ!俺なりに頑張るからさ」

ナオは震える足で精一杯に強がる。


「人族がみんなお前みたいだったらよかったんだがな…」

ウォードは寂しそうに笑うと、槍をつかみ燃え盛る里に走った。


ナオはそのまま里を離れる気になれず、ウォードを追って里に戻る。


彼の眼前にあったのは炎に包まれた地獄絵図だった。

そこらじゅうにリザードマンの死体が転がり、ナオの目の前でまた一人リザードマンが殺された。


「ウォード…死んじゃうんじゃないか?」

ナオの頭の中はウォードの安否の不安でいっぱいになった。


彼はウォードの姿を探して里の中を歩き回る。

頭の中では生存本能が延々とナオを責め立てていた。

なにもできるわけがない!早く逃げろ!ウォードの好意を無駄にするな!


でもナオはウォードを探さずにはいられなかった。


もう死ぬと思った時に彼に見つけてもらえた時のこと。

情けなく泣きじゃくる彼を呆れながら励まし面倒を見てくれたウォード。

ナオにとってウォードはもう行きがかりに出会った赤の他人ではなかった。


「説明したらわかってもらえるかもしれないし…」

馬鹿げた話だ、そんなわけがない。

自分でもわかるような理屈で自分を騙しながら遂にナオはウォードを見つけた。


彼は血まみれで膝をつきながら、それでも自身に刃を向ける兵士を睨みつけていた。


ナオは咄嗟にウォードと兵士の間に割って入り、彼を庇った。


「俺この人に助けてもらったんです、殺さないでください!」

ナオは顔面蒼白で震えながら言った。


「ナオ…お前…」

ウォードが息も絶え絶えに苦しそうにつぶやく。


兵士は無言で剣を振りかぶった。


「ははっ、やっぱこうなるんだ。俺の人生何も上手くいかなかったもんな」

ナオは涙目になりながら言った。

ウォードはそんな彼に「すまん」と小さな声で謝った。


ああ、助けたいな、せめて彼だけでも。


ナオがそう心から願うと何かが脈打つ感覚が彼を襲った。

彼の脳裏に我が名を呼べと聞こえてくる。

その声はリザードマンたちが大切に祀っていた祠から聞こえたように思えた。


兵士の剣がナオに襲いかかり、彼は身構えながら叫ぶ。


「顕現せよ、サラマンダー!」


するとウォードの体が強烈な光を放ち兵士がたじろぐ。


ゆらりと立ち上がったウォードの体の傷がみるみる塞がり、彼の筋肉が膨れ上がり体が増大して行く。


兵士はナオを振り払いウォードに切りかかる。

しかし彼は素手でそれを受け止め赤熱する手が剣を溶かす。


そしてウォードは炎を纏った巨躯の竜人に変身し雄叫びを上げた。


その声に兵士が集まりウォードを取り囲む。

しかしナオが瞬きする合間、ウォードは神速で兵士達を切り裂き、咆哮と共に放ったパワーフィールドでその場に集まった兵士たちを灰にして消し飛ばした。


ナオが唖然としていると変わり果てたウォードは彼を睨み、近づいて行く。


「ひいっ殺される!?」

ナオが腰を抜かして倒れ込むと、ウォードはキョトンとした顔で「なぁこれどうなってるんだ?」と戸惑いながら尋ねた。


-----


その後なんとか人族兵士を退けたナオとウォードは、

生き残りのリザードマンと共に近隣の里に逃げ延びた。


しばらくしてナオはウォードと共にリザードマンの長老に呼び出された。


「あんな事になったし責任取らされるのかな?」

ナオは心配そうに言った。


「お前は俺たちの恩人だ、そんなことはないと思うが…」

ナオほどじゃないがウォードも流石に緊張した面持ちで長老のテントに入る。


すると二人の姿を見た側近がかしずき、続いて長老もナオに頭を垂れた。


「我らの王よ、お待ちしておりました」

長老はナオに向かいそう口にする。


「ええ…?」

ナオとウォードは同時に困惑の声を上げた。


「創世主がこの世界をさる間際に予言された我らの王、

戦士の体に神を顕現させるそのお力間違いありませぬ。

どうか我らをお導きくだされ」


「そういわれても」

ナオはそう言って助けを求めてウォードを見る。

ウォードも反応に困っていたが、

長老や側近達の必死な目を見て意を決し、彼もナオにかしずいた。


「俺からも頼む、俺たちを救ってくれ」


「ちょっとウォード!?」


「あのままでは俺たちは人族に家畜にされていた。

これからも人族の脅威にさらされたままだ、里を守るにはお前の力がいる」


「わかった、わかったからからやめて。

長老さんも、俺そんなことされるような大した人間じゃないですから」


長老はナオのその言葉にキランと目を光らせる。


「さようでございますか王よ!感謝いたします

お前たちも表をあげよ、寛大なる王の願いだ」


長老がそう言うと、意を察した側近が口を揃えて「感謝いたします王よ」とだめ押しした。


「困ったなぁ…」

ナオは困り果てながらつぶやきながら、

その場のみんなの生傷だらけの体を見て、そりゃ縋れるものがあるなら縋りたいよなと思った。


「立派なことはできないし、失敗ばかりすると思うのでフォローして貰えますか?」


「ええ、王にご迷惑はおかけしませぬ。ウォード、頼めるか」


「拝命承ります」


「ごめんねウォード、面倒かけるけど」


「お前は里の恩人、そして俺の命も救ってくれた。

俺の残りの人生全てお前のものだ、好きに使ってくれ」


「お、重たいよぉ」


そんなこんなで挨拶回りを済ませていたら日が暮れて、

ナオは気疲れで気を失うように眠りについた。


夜中目覚めるとナオの体をウォードが抱きしめ眠っていた。


「えっなにこれ」

ナオは驚いて声を出す。


「む?どうした?」

ナオの言葉にウォードは目を覚ました。


「いやどうしたもクソもいきなり抱きしめられてたから…」


「主人を抱きしめ守りながら寝るのはリザードマン戦士の常識だが」

ウォードはまっすぐな顔をして何の疑問もなく言った。


「そ…そうなんだ」


モジモジしているナオの様子に、ウォードはハッとした顔をすると、急に顔を赤めてナオを見た。


「ナオ、もしかしてお前」


「ん?なに?」


「いや、なんでもない」

そう言うとウォードはナオを引っ張り寝床に抱き止める。


「早く寝ろ、明日から忙しくなるぞ。

お前は俺たちの王様になったんだからな」


「この状態じゃなきゃダメ?」

ナオが尋ねた時にはウォードは寝息を立てていた。


彼の屈強な丸太のような腕は引き剥がそうとしても不可能で、

ナオは仕方なくそのまま寝ることにした。


眠ってるウォードの顔を少し眺めているとなんだか愛嬌があってかわいい、

ナオは少し笑うと眠りについた。


-----


その後二人は人間の軍をサラマンダー化で追い払いながら生活していった。


戦いの中ナオはバリアスキルとファイアアロー、そしてウォードの傷をいやすヒールを習得した。

ナオにも戦いの自信がついてきた頃、

兵士が残した伝令書から王国の精鋭軍が攻めてくるとわかる。


「遂にこの時が来たか」

ウォードの言葉にナオがうなづく。


二人はこの日のためにリザードマン達と協力して作り上げた仕掛けを森中に仕掛けていた。

準備は万端、二人は精鋭軍との戦いに打って出ることにした。


鱗革を持つリザードマン以外が通ると中で杭が刺さって動けなくなる地下通路。

森になれたリザードマンしか見分けがつかない落とし穴。


それ以外にも狩りで使ってた技術を兵士として使えるようにナオが教え、

連携を取れるように練度も高めていた。


木の上を飛び回る弓兵リザードマン。

人間兵を追い立てる犬。

侵略者に襲いかかるトラップとゲリラ戦が敵側の兵士や重装兵や騎士を撃破する。


しかし戦いも終盤かと思われた頃、戦況が変わり始める。


次々にリザードマンが負傷して、その後投入された人間兵に押されて前線が後退していく。

敵側に凄腕の狩人が現れたらしく、それによって主力のリザードマンが次々に戦闘不能に追い込まれているらしい。


追い込まれて行くリザードマン陣営。


ウォードとナオは最後の手段として用意していた最終防衛線を使う事にする。

リザードマンの里の手前、窪地になった沢は敵兵が一ヶ所に集まる地形だった。


敵が迫る中、ウォードとナオは二人でそれを待ち構えていた。

他のリザードマンたちは里の住人の避難と警護の為に帰らせた。


「この戦いで俺は死ぬかもしれん、だから…」

ウォードはがらにもなく少しモジモジした。


「どうしたの?」

ナオはそんな彼の言いたい言葉になんとなく予想がついていた。

それとなく促すような声色と柔らかい表情が優しくウォードの背中を押す。


「お前の初めてが欲しい」

ウォードが勇気を出して口にする。

しかし彼は顔を赤らめナオを直視できずにいた。


「男にこんなことを言われて、迷惑かもしれんのだが…」


「ウォード」

ナオに呼ばれてウォードが彼の顔を見ると、ナオはそっとウォードの頬に手を触れてキスをした。


「ナオ、お前…いいのか?」


「いいもなにも、これが答えだよ」

ナオは少し照れくさそうに、でも嬉しそうに笑う。

そんな彼の顔を見てウォードは込み上げる幸福感を噛み締め、深く息を吸って天を仰ぐ。


「これで心残りはない」

しみじみと言う彼をナオは抱きしめる。


「ウォードは死なせないよ、なにができるかわからないけど、俺が命をかけて君を守るから」


「…ありがとうナオ、だが俺も自分の命よりも君が大切だ」


「じゃあ二人で生き残るしかないね」

ナオがそう言うと、今度はウォードの方からナオにキスをした。


「ああ、生き残るんだ。二人で」

ウォードは心から幸せを噛み締めるような顔で、ナオの手を握りながらそう言った。


人間の軍勢が現れ、仁王立ちで待つウォードとナオに兵士達はどよめいた。


「二人で俺たちの相手をするつもりか?」


「いやあれが噂の森の化け物かもしれん」


兵士達の疑問に答えるようにナオはサラマンダーをウォードに降し、自身は炎の矢をつがえ兵士達に挑む。


サラマンダーとなり孤軍奮闘するウォード。

ナオもヒールやバリアを駆使して、戦いがウォードに不利にならないように最善を尽くす。


しかし精神力がつき始めヒールが不発、サラマンダー化の間消費し続ける精神力も心許なくなってきた。


敵はまだ多い、ここで変身が解ければウォードの命はない。

サラマンダー化の維持のために力を振ると、

ナオを守るバリアが砕け散り、狩人が放った矢がナオに襲いかかった。


「ナオ!」

ウォードが悲鳴にも似た叫びをあげる。


次の瞬間、駆けつけた数人のリザードマン戦士たちがバックラーを使い矢を受け止め、ナオを包囲する人間兵を追い払った。


「お前達、あれだけ来るなと言ったのに」


「しゃらくせぇんだよウォード、お前だけにカッコつけさせるか!」


「そうさ、俺たちも里の英雄になるんだ!」


「馬鹿野郎…!」

ウォードは幼馴染達の友情に感激しながらそういうと、

気力を振り絞り残りの兵士たちを全滅させる。


余力がほとんどなくなったウォードの前に狩人が姿を現した。


「神体の噂を聞いてきてみたが本物みてぇだな」

狩人はそう言うと「狩りがいがありそうだ」と呟き怪しく笑う。


そして彼は「我が身体をもて顕現せよ!アルテミス!」と叫び、異形の狩猟神へと姿を変えた。


「さあ遊ぼうぜサラマンダー!!」


「そんな、もう俺たちに戦う力なんて」


変身が解けかけてアルテミスになぶられて行くウォード、

そんな彼をサポートしようとして蹴散らされて行くリザードマン達。


絶望が迫る中ナオは強く思う。

力があれば、ウォードをみんなを守れる強い力が!


ナオの心とリザードマンの心が一致して、

リザードマン達も炎の眷属に変身し、アルテミスの動きを翻弄し始める。


「ウォード!今だ!!」

ナオが叫び、ウォードは咄嗟にアルテミスに向かい雄叫びを上げる。


「ハウリングロア!!」

ウォードの雄叫びと共にサラマンダーは眷属と一体となった豪炎の矢となりアルテミスを焼き滅ぼす。


アルテミスの幻影が叫びながら狩人から離れ、サラマンダーに吸収され消える。


満身創痍になりながらも生き延びたナオとウォードとリザードマン達。

ナオは倒れ込んだウォードによろよろと近づくと、

お互い涙でぐちゃぐちゃになった顔で抱き合い、生きている喜びを分かち合った。


-----


その後、ウォードは里で傷を癒しながら悩んでいた。


「ひとまず人間軍は退けたが俺の存在が敵を招いてしまった。

俺がここにいたら次の神体が襲ってくる、だが里を離れれば人属の侵略を受けるだろう。

ナオ、俺はどうしたらいい」


困り果てた彼にナオは提案する。


「一つだけ手段があるかもしれない」


-

--

---


それからしばらく後、ナオとウォードは人間の国ルアルーナに直談判に向かった。


サラマンダーに軍隊を壊滅させられ戦力を失ったルアルーナは、

他国からの侵略を受ければ即落城する状況に陥っていた。

そこでナオはルアルーナ王にある提案をした。


「牧場に捕えられたリザードマンの戦士を解放してくれたらこの国の軍として編成して守ります、代わりに彼らを人間として扱って欲しいんです」


ルアルーナ王と大臣は悩んだが、ナオの申し出を受ける他道はなく、渋々契約を了承した。

そんな彼らを見てウォードは「それだけでは足りんな」と言い始めた。


「ナオをこの国の王にしろ」


「え!?」

ナオは目を丸くした。


「貴様はもはやハリボテの王だ、

リザードマンの王がこの国を守るのならばこの国はナオが総べるのが筋だろう」


「いやいやちょっとまってそれはいくらなんでも」

ナオは盛大に困りウォードを止めようとした。


「そいつはいいな、俺も賛成だぜ」

無情にもウォードの提案を支持する声が聞こえた。

それは先日ウォードと死闘を繰り広げた狩人だった。


「こう見えて俺は隣国サンブラウン国の王子でね、継承権が下の下なんで自由にやらせてもらってるが、後見人になる程度ならできるぜ」


「いやいや話を勝手に進めないでよ」


「是非もないと思うぜ大将、他の神体はもうそいつを狙って動き出してる。やり合うには国と玉座が必要だ」

狩人は困るナオを見てニヤつきながら言った。


「なぜ貴様が俺たちを助ける」

ウォードが少し警戒しながら尋ねると、狩人はへらへらと笑う。


「あんたのそばにいりゃぁ他の神体が来る、そいつを狩ってみてぇんだよ。幸いアルテミスの力の一部はまだ残ってるみたいなんでね」


「だそうだが、どうする?」

ウォードは僕に尋ねる。


「会社をクビになったサラリーマンの俺が、まさか転職で王様になるなんて思わなかったよ」


そんなこんなでナオはルアルーナの国王に就任し、

世界の覇権をめぐる戦いに巻き込まれて行くのだった。


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