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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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841回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 616:追憶のメロディ

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目的地に辿り着いた僕らは人影一つない埃っぽい廃墟の街を歩く。


僕らの目的地は瀑岺会のアジトだ。

しかし瀑岺会のアジトは常に場所を変えている。

集会をするたびに参加した仲間づてに次のアジトの場所を教え合う決まりらしい。


ショウと紗夜は前回の集会に参加していないため仲間に話を聞く必要がある。


紗夜が話がわかるメンバーのテリトリーから先に行きましょう、味方してくれるかもしれないと案内してくれたのがこの街アールジェルンだ。


紗夜は荒れ果てた街の様子に驚いていた。


「先を越されて穏健派の彼とテリトリーを瀑岺会に潰されたのかも……」

そういう彼女の目はかつてのアールジェルンの街並みを思い出すような寂しげな色をしていた。


貝殻で作られたウィンドチャイムがそこかしこに残され、荒廃したゴーストタウンに涼やかな音色が響く。

暴力により壊された残骸に日常の面影が響く不思議な雰囲気だ。

風が巻き上げる砂埃は取り返すことのできない時間を示しているかのように思える。


僕の周りには紗夜とアイリス、ショウとブラドがいる。


「今更だけど本当についてきて良かったの?」

僕はブラドに尋ねる。


「導師が貴様に従えと命じた、弾除けだろうが何だろうと好きに使え」


響くような重厚な声が答えた。

筋肉ムキムキな上に目深に被ったフードと顔につけた髑髏のような仮面の威圧感がすごい。


ナイトウォーカーにとって貴重な戦力である彼を貸してくれたということは、それだけ僕らに賭けてくれてるということなんだろう。


「君に失望されないように頑張るよ」


僕の言葉にブラドは愛想なくフンッと鼻を鳴らし軽く肩をすくめた。


「ん?」


ふと、風に乗ってピアノの音が聞こえた。


「聞こえた?」

紗夜はアイリスを下がらせ僕に尋ねる。


「うん、あっちだ。人がいるかもしれない」


僕らはそちらに向かう事にした。


寂しげな奇妙な旋律を辿っていくと、破壊された無人のコンサートホールに辿り着いた。

ステージの上のグランドピアノが一人でに旋律を奏でている。


曲を聴いていて僕ははっと気づいて口を開く。


「これ連弾の片側だけを演奏してるんだ」

僕はそういうとピアノの前に座って腕まくりする。


「なにをしてるの」

紗夜は不思議そうにいう。


「この曲はアブレウのティコティコって曲でね、すごく好きな曲なんだ。せっかくだから紗夜とアイリスに聞いてもらおうと思って」


「何を呑気な…」

ショウは呆れて嫌そうな顔をした。


「楽しそうなのです雄馬様」

アイリスはニコニコ顔。


「できるの?」

紗夜は半分呆れながら僕に尋ねた。


「少しだけやった事があるからたぶんね」


演奏を聴いてリズムを掴み、一呼吸、メロディのキリのいいところで演奏を重ねる。


寂しげだった曲が急に華やかになり胸を高鳴らせる音楽に変わる。


「わぁーっ!」

アイリスの歓声が僕の気持ちを高揚させた。


速度の速さと旋律の複雑さが僕の神経を鍵盤に集中させていく。


二つの旋律が絡まり合い、心まで一つになるかのような感覚。

ついていくのに必死だったはずの僕の体は心のままに鍵盤の上を踊りだし、頭の中で何かが弾けて途方もない開放感が絶頂を迎える中激しい光が僕を包む。


するとその光があたり一面に広がり、廃墟だった場所が綺麗なコンサートホールに変わった。


「これは……」

ブラドが驚き周囲を見渡す。


僕も少し戸惑いながらも最後まで弾き終えると、客席に座っていた観客たちの万雷の拍手を浴びた。


そんな中、いつのまにか隣で演奏していた少年と目が合うと、彼は優しい顔で微笑んだ。

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