836回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 611: 不浄なる刃
老人はナイトウォーカーという組織の成り立ちについて話し始めた。
この地域一体は古くは不浄なる刃と呼ばれる古代の暗殺者集団によって統治されていた。
暗殺による死と死神の偶像による恐怖を使い平和を維持してきたが、年月が経て衰退し、荒廃した国は商人王ニルバによってムカルム商国と名前を変え。
歴史の影に消えかけていた不浄なる刃から裏切り者が出て幹部の大半を殺し、ソウハに不浄なる刃を売り渡して瀑岺会の暗部組織にしてしまった。
不浄なる刃の生き延びた幹部と離反者達はナイトウォーカーを組織し、瀑岺会の支配から民衆を守る立場になったのだという。
「待って、その話だと瀑岺会は敵でしょ?なんでここにそのメンバーが一人いるの?」
紗夜は疑問を口にする。
ショウは素知らぬ顔で本を読んでいる。
ショウタイフォン、ソウハの右腕。
会ったことはないが名前には覚えがある。
老人の話では不浄なる刃の幹部の一部が生き延びられたのは彼の手引きによるもので、ナイトウォーカーを組織する上でも彼の助力があり、言わば彼はナイトウォーカーの事実上のリーダーにあたる存在だからだという。
「……あり得ないわ」
紗夜は驚きを隠せないと言った顔でショウを睨む。
たしかに彼が僕の知っているショウタイフォンであるなら、彼がソウハを裏切り、ましてや対抗組織を指揮するなんて考え難い。
彼は前の世界においてファンソウハの片腕としてどんな命令でも必ず成し遂げ、ソウハに尽くしていた。
瀑岺会幹部の彼の父親がソウハを危険視し、組織内で暗殺を企てた時も、彼は迷わず父の首を斬り落としソウハに捧げたのだという。
彼の忠誠の理由は定かではないが、ソウハの名前が組織内で知られ始めた頃にはすでに、ショウはソウハの忠実なる右腕としてそばに居た。
そういう話を聞いたことがある。
ショウはチラリと僕を見ると目を伏せ本を閉じる。
「裏切りの理由がなければ信じられないか?」
彼の腕輪が光輪を生み出し、本が消えて一本の金の鍵になった。
「恥は雪がねばならない、全てはその為だ」
そう言うと彼は鍵を投げて渡す。
手にした鍵は醜く歪んだ神の像のような形をしている、なんだか手に触れていたくないような不快感のある妙な雰囲気がある。
「私にはある目的がある。その為にはナイトウォーカーという組織の存在と、瀑岺会に向かうお前に同行する必要がある」
「貴方もついてくるっていうの、冗談でしょ」
彼は紗夜の言葉に肩をすくめてみせると僕の方に歩み寄り手を差し出した。
紗夜は絶対にやめた方がいいという顔で僕をみたが、ショウはまるで僕の気持ちを見透かしたかのように不敵な顔で僕を見る。
どちらにせよこの場はナイトウォーカーの協力が必要だ。
多少の危険を孕むとしても彼の申し出を受けるほかない。
「少し刺激的な旅になるかもしれないね」
そう言いながら僕はショウの手を握り握手を交わした。




