834回目 わけあり陰陽師は犬神と暮らしている③
鷹羽はある日舞い込んだ依頼のためある民家を訪れていた。
娘が悪夢にうなされ一睡もできず、学校に行けずに部屋に篭っているためなんとかして欲しいという。
彼女の部屋に入ると窓もカーテンも閉め切った暗い部屋の中にむせ返るような死臭が充満していて、鷹羽は少し眉をひそませる。
ベッドの上で寝ている娘の上にチリチリとした憎悪の塊を感じた鷹羽は、ドアを閉め密封した部屋の中タバコに火をつけ紫煙を燻らせる。
次第に煙が部屋を満たすと、娘に取り憑いた悍ましい女の化け物が煙の中に見える。
頭が毛だけでできていて中に目玉がいくつもぎょろぎょろしているそれは、髪の毛で女の子の頭を包んで穴という穴に毛を入れて苦しめているようだ。
「君、夢が見たいんだろ」
鷹羽がフーと煙を吐きながら言うと、化け物の眼球が一斉に鷹羽を見る。
「それなら他人の目なんて使わずに俺と見た方がいい」
鷹羽がそう言って手を握ると、バケモノは女性の姿になり、元に戻った自分に驚いていた。
そんな彼女を見て鷹羽は優しく笑う。
「うん、やっぱりいいね」
鷹羽はそういって彼女の髪を避けて頬を撫でる。
「夢は男と女で見る物だ、そうだろ?」
彼が彼女にキスする様な距離で微笑みながら言うと、悪霊は頬を紅潮させ鷹羽のキスを受け入れた。
煙は薄れ、少女は安らかな顔で寝息を立てる。
悪霊の気配はすでにない。
鷹羽が換気のために窓を開けると、気持ちのいい青空が広がっていた。
「帰る前に散歩でもしようかな」
そう言うと彼は成仏していく霊を送るように紫煙を燻らせた。




