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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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828回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 607: ナイトウォーカー

 目的地につき観光地のエリアから外れると、スラムの荒涼とした光景が延々と続いていた。


 死体なのか寝ているのかわからない人、壁に延々と頭を叩きつけている人、どこからか悲鳴が聞こえてそちらに向かうと、道中無数のリンチがあり誰のあげた悲鳴かわからない始末。


「こりゃ助けて回ってたらキリがねぇな」

 クガイが参ったという様子で頭を掻く。


 僕は琥珀のダガーで木の棒を生み出し、暴力を振るっている人全員のケツの穴にそれをぶち込む。


「ひえー」

 ベイルがそれを見てケツを押さえて震え上がった。


「さてとちゃちゃっと用事を済ませちゃおう」


「この先どうするんだ?瀑岺会の奴らをしらみ潰しにぶっ潰すなんで言わないだろうな」

 ミサゴが僕が言い出しそうなことを予想してうんざり顔でいう。


「手がかりがなかったらそうするつもりだったけど、残念ながら商人王にレジスタンスを探すように言われてるんだ」


「順当だにゃ、でもどうやって探すのにゃ?」


「馬車に乗ってる間考えてたんだけど、鳩を探そう思うんだ」


「鳩?食うのか?」

 ベイルが目をらんらんとさせたがすかさずリガーが彼の頭をはたく。


「いって、なにすんだよぉ」


「食ってどうすんだにゃ、食い意地も程々にしろにゃ」


「リガーにだけは言われたくねぇんだよなぁ」


「伝書鳩ね、確かにいい考えだわ」

 二人のやりとりをスルーして紗夜が言った。


「地下活動をするには連絡手段が要になりますからね。

 頻繁なやり取りのあるルートを割り出すことが出来れば、そのどれかがレジスタンスに通じてる可能性が高い。さすがは雄馬殿です」

 マックスはうなづきながら言う。


「ということで馬車に乗ってる間に生命力探知でマークした地図がこれ、チーム分けしてこのマークした場所を捜索しようと思うんだ」

 そう言って僕は数枚の地図をみんなに見せた。


「異論なーし」

 クガイはそう言って地図をひったくる。


「でもそこのねーちゃんはどうするつもりなのかにゃ?」

 リガーはそう言いながら地図を取り紗夜をみる。


「紗夜は僕と一緒に行動するから大丈夫だよ」


「私は瀑岺会のメンバーだけど本当に問題ないのかしら」


「ソウハは僕と会いたいんでしょ?だったら瀑岺会と戦って僕が近づく事に肯定的なはずだよね」


「わーい、アイリス雄馬様と一緒で嬉しいのでーす」

 アイリスは無邪気に喜び僕に抱きつき、そんな彼女を見て紗夜は控えめに微笑む。

 僕はアイリスの頭を撫でながらそんな彼女に笑顔になった。


「それとは別に僕が紗夜を信じたいからって理由もあるけどさ、ダメかな」


「お気楽な人ね、人に食い物にされて死んじゃうわよ」

 呆れたように言うと紗夜は僕とのチームアップに納得した。


 僕と紗夜とアイリス、クガイとミサゴ、リガーとベイル、マックスとヴカのチームでそれぞれ行動することに。


 地図にはそれぞれ別のエリアを生命力探知し、把握した鳩の移動範囲の中、規則的な一団をマークしてある。


 僕の担当の地図の鳩は、酒場と墓地を行き来している。

 怪しすぎる動きだ、つまりレジスタンスか瀑岺会のどちらかの可能性が高い。


 酒場に入ると厳しい目が僕らに注がれた。

 気にせず僕らはカウンターに座りミルクを注文する。


 出されたそれを飲もうとすると、いかつい男たちが僕らを取り囲んだ。


「よそ者お断り、って感じね」


「事を荒げたくはないんだけどな」


 殴りかかってきた男を交わしながら僕はミルクを口にする。


 体裁だけでも手出しはしない方が良さそうなので、フットワークで相手の配置を誘導し、拳を避けると共倒れになっていくように回避を繰り返していく。


「なるほどね、悪くないやり方だわ」

 そう言いながら紗夜は肩を抱こうとした男の首元に刃を突きつける。


「私は安くないのよ、手を出す相手は間違えないことね」

 そう言ってビンタで相手を吹き飛ばし、アイリスを自分の影に隠した。


 残り二人息を切らして立ってるだけの状態になってバーのマスターが手を上げて彼らを下がらせる。


「試して悪かったね、商人王との契約輪をしてるのを見てニルバの寄越した客かとは思ったんだが、腕っぷしを見ない事には信用できなかったんでな」


「ということはやっぱりここがレジスタンスのアジトなんですか?」


「支部の一つ、末端だよ。俺たちはここらを纏めてたギャング達の残党、お偉方は別にいる」


 それからマスターはお詫びに僕らに軽食と飲み物を提供し、昔話をした。


 かつてこのあたりはギャングの抗争やシノギに手を出した一般層の死人とかは出ていたが、その地域のギャングの活動に干渉しなければ下手な国より安全に暮らせる場所だった。


 構造的には州法で州により別の国みたいな統治方法になってるアメリカみたいな形式だったらしい。


 それを瀑岺会が叩き潰し、傘下の組織のみで一元化。 瀑岺会から買える市民権が不可欠になり、市民権を買えない大半の人間は資材として狩られて奴隷として売られたり強盗殺人も許可され臓器販売にも使われてるらしい。


 お金がなければ邪神教に縋るしかないが、邪神教徒は皆すぐに頭がおかしくなってしまう。


 市民権もなく、邪神教も拒んだ人々を守っているのが生き延びたギャングの連合によるレジスタンス、その元締めがナイトウォーカーという秘密組織なのだそうだ。


 ナイトウォーカーとの関わりを示す目標があり、マスターが指差した店の片隅に、髑髏の女神像のささやかな祭壇があった。


「ナイトウォーカーを探せ、奴らなら瀑岺会に対抗する手段を何か知っているかもしれない」


 マスターにそう言われて、次は墓場を目指す事にした。


 街中を注意して見てみると、この地方に身を寄せた人たちが髑髏の女神を祀っているのを散見した。

 つまりこの一帯はレジスタンスに守られた区画らしい。


 墓に近づくと違和感を覚え、僕は生命力探知をした。

 この周囲の人間の生命力の数と、気配の数が合わないのがわかった。


「監視されてるみたいね、場所は掴めないけど」

 紗夜が警戒して鞘を握る。


 夜闇の中を同化して動いてるなにか。

 夜風のようにただそこにある夜の一部。

 ナイトウォーカー、たしかに彼らは名前の通りの存在らしい。


 小雨が降り出し僕らは墓場にたどり着いた。

 雨の中僕は足元の地面が一部不自然に乾いていることに気づく。

 水が退くように乾いた地面が道を示していく。


 それは墓地の外れの朽ちた建物に続いていた。

 草が覆い隠したそれはぱっと見ただけでは建物とは理解できない荒れ具合だ。

 おそらく地下聖堂のような死体を一時的に保管する場所だったのだろう。


「招かれてるみたいだけど、どうする?」


「行ってみるよ、紗夜はアイリスとここで待ってて」

 そう言うと僕は地下に向かった。

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