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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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822回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 602: 発火点

 翌日僕は商人達から逃げ回っていた。


 眼前に買い物中のリガーとマックスの姿を見かけ「あと任せた!」と彼らの肩を叩き、商人達をリガーとマックスに押し付けて更に先へ。


 ベイルが気に入ったと話していた屋台に狙い通りベイルがいた。


「ベイル!ブーストよろしく!」


「んあ!?何やったんだよ雄馬」

 口に食べ物を頬張り困惑しながらベイルは僕を加速、僕は建物の壁を走り三角跳びをして屋上へ駆け上がる。


「ここにくるまでに使った商船売ったんだ、そうしたら商人さんが怒っちゃって」


「なにやってんだよぉ!?」

 屋台で買ったものを抱えながらベイルも後から続く。

 商人達はまだ数人鬼のような形相で後をつけてくる。


「必要なものを揃えるのにお金が足りなかったんだ、でもこれであとはやるだけだから!」


「ったくもーめちゃくちゃだぁー!!」

 ベイルは嘆きながらも僕と一緒に街中駆け回る羽目になった。


 その後ごたごたをなんとか丸め込むことに成功した僕たちは、商売の種の仕込みを始めた。


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--

-


 目の前には倉庫の中には小さな山のように積み重なった白く濁った水晶のようなものがある。


「これがアルム石、こんなもんが本当に大金に変わるのか?」

 ベイルが訝しげに言う。


「どんな料理も素材を見ただけじゃ仕上がりがどうなるかはわからないでしょ?」


 そんなことを話していると、わらわらと獣人達が何かを運んできた。

 彼らが積み上げていく荷物を確認して謝礼を渡す。


「あ、これプリベーロ村で使ったグアノか?」


「うん、獣人の嗅覚で探してもらってたら思いの外お金かかっちゃって」


 海に面した洞窟から海鳥やコウモリの化石化糞(グアノ)

 それを集めて水に溶かして、木材の灰を混ぜて煮て、上澄み液を濾過して煮詰めて濾して煮詰めてを繰り返して硝酸を得る。


「硝酸と木炭を混ぜれば黒色火薬の原料になる。これなら戦時需要にも合致するから高く売れますね」

 マックスが言う。


「でも僕らに必要なのは大金だ、そこで使うのがこれ」

 僕はそう言ってアルム石を見せる。


 アルム石を熱して出てきた硫酸の気体を水に溶かして硫酸を作る。

 動物の油を入手して溶かす、弱火で一時間煮詰めて油から水分を飛ばしてグリセリンにする。


 硫酸と硝酸を混ぜてグリセリンに混ぜ、それをおがくずに染み込ませて筒に詰める。


 次はこの世界で不死石と呼ばれる赤い石を熱して得られる銀色の毒を収集。

 それを加工して粉状の火薬を作る。


 出来上がったものをちょめちょめして、導火線をつけたら出来上がり。


「なんだこれ?」

 ベイルが不思議そうな顔で眺める。


「それじゃうまくできてるかどうか実験しよう」

 と言って僕はみんなを人気のない海岸へ連れていった。


 簡易なイカダに木樽を乗せて、それにさっき作ったものをセットする。


 そうこうしている間に見慣れないおじさん達をマックスが何人か連れてきた。

 彼に頼んでおいたディアナ公国と以前取引したこのあたりの大商人達だ。


「商売敵に金稼ぎの方法を見せていいのかよ」

 ベイルが心配そうにいう。


「商売敵じゃないとできない物の売り方があるんだ、まぁ見てて」


 そういうと導火線に火をつけ、イカダの帆を全開にして沖に流す。

 しばらくしてイカダは大爆発して木っ端微塵になった。


「なんという破壊力だ……」

 マックスや彼の連れてきた商人達も唖然としている。

 爆発時に驚いて飛び上がったベイルが落下して砂浜に上半身突き刺さりぐったりしていた。


「大丈夫?」

 そう言ってベイルの手を引っ張ると彼はなんとか砂浜から起き上がり頭を振った。


「うぇ口に砂がぺぺぺ……じゃねえや、雄馬!なんなんだありゃぁ」


「ニトログリセリンで作ったダイナマイト。鉱山を切り開くのにも使えるしそれ以外の需要も色々あるよ」


 下調べの通り、商人達のあの驚きようだとまだこっちの世界には伝来してなかったみたいだ。


 ダイナマイトの威力を見て心の壁が弱くなった商人達の思考を幻影水晶で読み取ると、焦りと欲望と打算のうねりを感じた。


 商売敵になるかもしれない相手がとんでもない商機を握っていると知った焦り。

 それが欲しいという欲望、手に入れるための打算。

 計算通り、持ちかけるなら今だ。


「これから僕達はある商売を始めようと思ってます。そのスポンサーになってくださった方々には、ご覧になったこの商品の販売権利に製法と原料入手ライン、その全てを提供します」


「はぁ!?」

 僕の言葉にその場にいる全員が素っ頓狂な声をあげた。

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