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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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821回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 601:アンダードッグ

 その後僕らは手分けして情報を集めて回った。


 海運は商業の要であり、僕らのたどり着いた港町ハーベルムもムカルムにおいて重要な商業都市の一部だ。


 配られたカードは少ない、勝つための手段をこの街で見つけなければならない。


---

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-


「というわけで日暮まで情報収集に回ったわけだけど、みんなどう?」


 僕の質問にみんなうなだれながら首を横に振った。


「これだけ商売が盛んな場所じゃ、稼ぎの種なんて全部他の商人が手つけちゃってるにゃ!」

 リガーが道端で買ったものをベイルと食べながら言った。


 クガイや仲間の商人達の様子からさっするにみんな同じ結果らしい。

 僕もこれといって有益な情報は得られなかった。

 商人にとって情報は金より価値がある、簡単に掴ませてはくれない。


 考えないようにしていた悪い予感が当たってしまったらしい。

 

「マックス頼んでたダメっぽい物はどうだった?」


「ダメっぽい物?」

 ベイルが口の周りを焼きそばのソースまみれにしながら言った。


「大小ありますが、規模が大きい負債のものはこちらです」


 そういって彼は僕に何枚かの紙を手渡した。

 僕にとって本命はこの情報だ、情報収集が得意そうなマックスに頼んで正解だった。


 これは事業が失敗してまだあまりしている物資についての書類だ。

 僕はそれをざっと流し見して、一枚の紙に目をとめた。


「アルム石か、使えるかも」


「あるむいしってなんだ?」

 ベイルが首を傾げて聞いた。


「風呂上がりに腋の下に塗っておくと、脇の臭いが抑えられるエチケット用品だよ」


「必需品とは到底言えねえな、ここいらの戦火が拡大して取引が成立しなくなったってとこか」

 クガイが顎を掻きながら言った。

 海賊の彼は海運の流れも熟知している。

 その彼がいうのだからつまり現状贅沢品に近い物はあまり売れないということだ。


「近くにアルム石の産地があるらしいから結構な打撃みたいだね。っとそろそろ仕込んでた料理が出来上がる頃だ、夕飯にしようか」


 そう言いながらリガーとベイルを見ると、彼らは全然余裕で夕飯食えるよといった顔でにんまり笑顔をした。


 今日の夕飯はイタリアのトスカーナで好まれているパンツェネッラとフィレンツェの伝統料理トリッパだ。


 パンツェネッラはバゲットを大きなサイコロくらいのサイズに切って、野菜と混ぜ、オリーブオイル、ワインビネガー、塩胡椒で味付けしたサラダ。


 トリッパは牛もつを意味していて、トマトや野菜とチーズと一緒に牛もつを煮込んだ料理。

 

 パンツェネッラに使うバゲットは古くて硬くなった物を数時間水につけて絞った後に使う。

 少し抵抗のある調理法だけど、ふやかしたバゲットの食感が良くいくらでも食べられる。


 みんなにも好評であっという間になくなった。


「今の料理に使ったのは古くなって捨てるしかないパン、それに牛もつもこの町で捨てられる素材、つまり両方とも廃材利用の料理なんだ」


 みんな僕が何を言い出そうとしているのか察して真剣な顔で僕を見た。


「有金全てでこの会社を買おうと思うんだけどいいかな」


 そういってテーブルに出したのは先ほどのアルム石で負債を出し倒産寸前の会社だ。


「いきなり全ツッパかよ、もう少し考えたほうが良くねえか?」

 ヴカは僕の無鉄砲を諭すようにいう。


「この街の市場は飽和状態にある、付け焼き刃で突っ込むよりは資本を元に堅実に切り込むほうが勝算あるんじゃないか?」

 ミサゴは僕の決心を試すように言った。


「それもそうだにゃ、そもそもおいら達は商売のことにゃ素人だにゃ。ペテンで金儲けしたほうがまだ確実にゃ」

 リガーは彼なりの経験に基づいた意見を口にする。


「みんなの意見はそれぞれ一理ある、でも僕らには時間がない。短期決戦で攻めなきゃ邪神族に先を越されるかもしれない、それに」


「シラクスも攻め落とされるかもしれねぇ、だな」

 クガイはそういうと難しい顔をした。


「ここに居る連中はみんな雄馬の行動で救われてきた、それがいつも無茶だったのは知ってるはずだぜ」

 彼が続けた言葉にみんなたしかにといった顔をした。


「雄馬はいつだって挑戦者の立場で勝ってきた、俺はそんなこいつの無茶にかけてみるつもりだ。その価値はあると思うがどうだ?」

 彼の問いかけにその場のみんながしぶしぶながら賛同の空気を出す。


「異論はないようだな、というわけで決まりだ。頼んだぜ雄馬、お前の勝算ってやつを見せてくれ」


 改めて言われると正直プレッシャーで弱気になりそうになる、だけどわずかでも可能性があるなら僕は受けて立たなきゃならない。


 テーブルの下でベイルが僕の腰に手を触れた。

 彼をみるとベイルは小さくうなづき、僕はその手を握りしめる。


「どんとこいだ!任せといて!!」

 僕は胸を叩いて自信に満ちた笑顔をみんなに見せた。

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