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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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819回目 この素晴らしき滅亡世界で

何度目かの世界大戦で世界は分断された。

空と海と大地に無数に残された地雷や機雷によって移動が不可能になり、

それらを回避しながら自立稼働する殺人ドローンが暴走して身動きが封じられたからだ。


そんな混迷期の中で各国政府や企業は自勢力により活動できる範囲やルートを開拓し、

それを独占することで新時代における既得権を獲得、富を牛耳っていった。


特に重要視されたのが空路だ。

制空権の獲得は言わば西部開拓時代のゴールドラッシュにも似て、

数多のならず者が金と名声のために天穹のフロンティアに駆け出していった。


ならず者達が駆るのは馬では無く、巨大な人の形をした熱気球だ。


機体表面を覆う 球皮(エンベロープ) は大気圏突入すら可能な耐熱性、鋼鉄を超える強度を持つ。

それでありながらしなやかな靭性を維持した高分子ポリマーにより構成された人類史の到達点の一つ。


地殻破壊爆弾の影響で戦闘機が飛行不能なほどに乱れた気流に包まれた世界において、

それは唯一鳥のように空を駆け抜けられる 機構(マシン) といえた。


そしてまた一人の命知らずの夢見人が野望を胸に荒れ果てた空に飛び立とうとしていた。


「リップバルブオープン、バーナー点火」


コクピットで少年が計器を操作していくと、

皮を被った骸骨のようなフレームが膨らみ巨人に姿を変えていく。


膨張する球皮により装甲が展開し、バーニアを構成、

盾、ヘビィプレッシャーガン、反粒子サーベルなどの武装を形成し、

その姿は大空の支配者たる戦士のそれに変わった。


「行くぜクロスウィンド!テイクオフ!!」


巨人は呼応するような爆音を上げその機体を浮上させ矢のように飛び立つ。


眼前の大空には無数の敵、敵、敵。

しかし彼とそのマシンにはその全てが金貨のように見える。


撃破証明のためのカウンターにスイッチを入れ、類い稀なる神業で敵を薙ぎ払うごとに、

それらは彼に財をもたらし金貨の如く空に輝く。


「バーナーフルバースト!!」

少年が叫ぶ。


それに答え装備やバーニアや装甲がバンプアップしながら変形し、

膨れ上がった大火力がさらに広範囲の敵を蹴散らしていく。

その姿はまるで天災そのものに似ていた。


燃料が加速度的に損耗される命懸けの手段、少年はそのギリギリのやり取りに笑みをこぼす。


彼の望みはそのマシンと空を舞い幸福になる事。

かつて折れた翼で死んだ友に、その絶望の死に際に、

二人が夢見た空の素晴らしさを証明すると誓ったから。


破滅の世界の最果ては少年にとって果てない未来のフロンティアであった。


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