818回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 599:スイートルート
「断っても構わんぞ、魔王候補者がロアノークとグリダロッドをもう退けるか見るのも一興だ」
ディオニスは挑発するようにいう。
「言え!雄馬!断れ!」
ベイルが僕に力強く言った。
たしかに断ったとしても魔王候補者として動けば成果は得られるかもしれない。
ただそれをすれば海賊として敵視されるモンスター達の立場を悪化させ、シラクスをモンスター寄りの国という立場に追い込み、最終的に帝国との全面戦争という形になりかねない。
そうなれば血塗れの地獄の中での本当の覇権争いになる。
彼はそうなる方が良いとすら思ってるんだろう、僕の返答を待ちながら目をキラキラさせている。
暴虐王め、僕の返答を見抜いた上での発言だ。
それなら僕の答えは一つ。
「受けて立ちますよ、矢でも鉄砲でも持って来いだ」
ふーむと言いながら少し残念そうな顔をした後、ディオニスは王ではなくキングDの気さくな兄貴の顔で笑った。
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その後僕らは乗り心地抜群の商船で次の目的地への船旅をしていた。
船に設備として備えられていたオブジェクトを用いた冷却器を使い、ホイップクリームとカスタードクリームを混ぜ、いろんなベリーとナッツを混ぜて、土台に砕いたクッキーを敷き詰めたジェラート、イタリアンセミフレッド。
チーズの代わりにヨーグルトをたっぷり使って焼き、ダイス状にしたみかんと黄桃と柿、そしてハーブを散らしたピザのスイーツ。
クッキーに溶かしたマシュマロを載せて模様をつけてアラザン(砂糖の粒を金銀にコーティングした食べられる飾り)と、寒天と砂糖と食紅で宝石のように作った琥珀糖でファビュラスに盛った映えクッキーを作って船員に振る舞うとみんな喜んでくれた。
シャッフルダンスを景気良く踊る陽気な船員達。
彼らは今まで他者との命懸けの戦いなど経験したことがないのがよくわかる。
これからの僕も彼らのように振る舞わなければならない。
僕達は偽物の戸籍を与えられ、商人見習いとしてムカルム商国に向かうことになった。
ロアノークの宝輪は先代王の時期に不浄なる刃の暗殺者によって持ち出されたらしい。
伝説に謳われた不浄なる刃はムカルム商国の地方にかつて存在したと言われる邪神教信者の暗殺組織らしい。
宝輪の位置を知ることのできる力を持つらしいそれはガルギムさん達の居場所を知るのに不可欠だ。
手遅れかもしれないがどのみちシラクスを救うために行くしかない。
ディオニスに出された条件はムカルム商国の王に謁見して交渉する事。
ロアノークが掴んだ情報によるとムカルム商国は今瀑岺会という新興組織が支配域を拡大して危機に瀕しているらしい。
そこでムカルムにロアノークと有益な貿易をしないかと持ちかけ、その条件にムカルムを荒らしている瀑岺会に始末をつけると約束する。
わらしべ長者みたいだと少し思いながら僕は仲間達とムカルム商国の地面を踏んだ。




