817回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 598: 混沌の王
ロアノーク王城についた僕たちはシラクスの話をするために玉座に向かった。
ディオニスが玉座に座ると側仕えの者が彼にマントをかける。
マント一つ纏っただけだというのに彼の王としての威圧感が迸る。
そんな彼に気押されるかのように使用人と兵士達が足早にその場を離れ扉を閉ざした。
「お前たちの目的は理解してる、シラクスに対する侵攻についてだな?」
彼は王としての人格で言葉を発した。
ここからはビジネスの話というわけだ。
「ここまでの貴方は合理的な思考の持ち主だと感じました、何故帝国の蠱毒の様なしきたりに従ってるんですか?」
僕は率直な疑問を彼にぶつけた。
次代の皇帝を決めるために継承権を持つ者達を各地の王にして戦争させる。
一見して馬鹿げたこの仕組みに彼がなぜ従っているのか見えれば交渉の余地ができる。
「なぜ人を殺してはいけないか、という問答をしたことはないか?」
ディオニスは剣を引き抜きその刃の氷のような切先を眺めながらいう。
「その答えは単純なものでな。
仲間内の殺人を許す集団と、殺人を許さない集団が殺し合いをして、後者が生き残ったから。
ようは集団として見た時の強度の違いにすぎない」
そう言って彼が剣を振ると見えない何かが引き裂かれたような清廉な音が鳴り、その響きを彼の納刀の音が支配し止めた。
「つまり帝国のやり方は理にかなっていると?」
「国という単位で見れば不合理極まり無いが、この馬鹿げた世継ぎは帝国の役割に基づいている。
皇帝は人類の守護者たれ。という初代皇帝の絶対厳守の法を根幹とした 機構 、それがバルバラッド帝国の正体なんだ」
彼はそう言うと僕を見て続ける。
「この世界の人間は皆異世界からやってきたプレイヤーたちの子孫だという話は知っているな?
この世界に訪れた最初のプレイヤーが人間たちを纏め帝国を興した初代皇帝アルヴ」
「雄馬アルヴっていやぁ」
ベイルがその名前に驚いて呟く。
黒騎士と組んで各地で暗躍している教授、彼の名もアルヴだ偶然の一致なのだろうか。
「それから帝国はモンスターから人類を守るための機関としてあり続けた。
領土が広くなり過ぎれば纏めきれず争いと分裂を起こすのはそちらの世界の歴史が物語っている。
その土地にある者の存在意義が支配を拒み闘争を求めるからだ。
とすればどうするか、王子を各地の王に据えて戦争の形で世継ぎを決めればいい。
そうすれば人の望む闘争は起き、国が分断されることもない。
そして争いが絶えないことでモンスターと戦うための武力も磨かれていく」
平和のための闘争、矛盾している。
しかし人間という矛盾した生き物をシステムで庇護するためには、矛盾した受け皿しか機能し得ないのは否めない話だ。
「帝国と皇帝は人間の願いを叶える機械仕掛けの神のようなもの。
醜く卑しく愛しい人類を守るためのたった一つの手段というわけだ」
彼はやれやれと言った様子で口にした。
生まれつきシステムの根幹になる定めを背負わされ、守るべき物の愚かしさをも受け入れなければならない。
選択権がない立場というのはたしかに窮屈だろう。
全てを投げ出して生きられるほど彼には他人が有能には見えないのだろう。
そんな彼が僕を見てほのかに笑みを浮かべる。
「だがそれではやはりつまらない。
全てをひっくり返す、そのためにはお前が必要なのだ魔王候補者山桐雄馬」
おや?なんだか雲行きが怪しくなったような。
「力と器を証明しろ。
その暁にお前にはこの混沌の世界の王になって貰う」
「ええ!?」
予想外の方向に話が進んでしまい僕は思わず声を出した。




