816回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 597: アクセラレーション・エフェクト
その後ディオニスに連れられて街中を歩いていると襲撃を受け始めた。
小石に始まり弓矢に銃弾、僕らはそれぞれの武器を使いその攻撃をしのぐ。
すれ違う通行人がナイフで刺そうとしてきたのでディオニスは蹴りでそれをいなしその姿勢のまま瞬時にステップで距離を詰めて相手の腹部に深々と前蹴りを突き立て吹き飛ばした。
相手は吐血して動かない、おそらく内臓破裂で即死だ。
彼は両手をポケットに入れながら鼻歌混じりに殺人キックで襲いくる住民を殺していく。
さらに襲いくる人々が転んでは逃げていくので何事かと思ったら、リガーが彼らを転ばせながら武器と財布を奪い取ってホクホク顔でむふーと笑っていた。
彼はパラディオンに置いてきたはずだけど知らない間についてきていたらしい。
太っちょ猫獣人の盗賊なんて冗談みたいだがやはり腕は確かなようだ。
彼は手癖が悪いのでトラブル回避のため置いてきたのだが付いてきたなら仕方ない。
建物上階に潜む射手はミサゴが飛んで投げナイフで撃退していく。
僕らを暴徒が取り囲んで身動きができなくなるとディオニスは「さて困ったな、この先に馬車を待たせてあるんだが」というと、僕を見る。
僕は山刀の鯉口を切り衝撃の大罪魔法で群衆を吹き飛ばしてみせる。
ディオニスは口笛を吹いて賞賛するとみんなで馬車に乗り込む。
ディオニスが指を鳴らすと御者が馬車を走らせ始めた。
馬車の窓から火矢をつがえた男達が見えた。
あれで馬車を燃やされたら厄介だが、不思議と放たれた矢や爆弾はこちらに届くことなく次々に落ちる。
「なかなか面白い能力者がいるな」
とディオニスが楽しそうに言う。
誰かが何かしているのか?馬車の中を見渡すと。
僕の隣に座っていたベイルが目を閉じて何か集中してる様子だ。
速度低下はベイルを狂わせるほど負担が大きい、無理はさせられない。
「ベイル、無理はしないで」
「うんにゃ、これは加速だから大丈夫、ちょっと集中しなきゃだけど……」
むむむっと唸りながら片目を開けて彼は言った。
「前に雄馬が物の重さは物の中の粒の速度で決まってるって言ってたろ?雄馬の重力操作みたいなことできないかと思ってやってみたんだ」
そういえば以前パラディオンで一緒に寝てる時に彼にそのような話をしていたのを思い出す。
物体は原子で構成されていて、原子は原子核と電子で構成されている。
そして原子の重さは原子の持つエネルギーの高さで決まっているため、原子核の周りを回る電子の速度が上がるほど重くなる。
ベイルは僕らの周囲に電子速度の上がるエリアを作って物体を重くしているようだ。
「理屈としては不可能じゃないけど、それを感覚でやってしまえるなんてベイルって割と天才肌だよね」
「煽てるのはやめてくれぇ、ふにゃけて集中できねぇから」
そう言いながらもベイルは顔を赤め尻尾をブンブン振る。
「あとでたっぷり褒めてあげるからがんばって」
そう言って手を握ると彼は僕の手を握り返し「約束だからな?」と言った。
襲撃から逃げきり、僕たちはロアノーク王城へと向かった。




