812回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 593: 化学という名の錬金術
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翌朝になるとミクはいなくなっていた、クガイが昨晩彼女の仲間のいるところに送り届けたと言っていた。
僕はひとまず畑の土を見に行く事にした。
畑はどれも荒れ放題で雑草にトキトキしたカヤという物が生えてる、痩せた土地の特徴の一つだ。
作物を作りすぎて土に含まれる有機物が減って微生物が偏っている証拠だ。
それに土が乾いてサラサラしている、水を含みにくくなっていて作物を作るには良くないコンディションだ。
作物を作るには黒くてふかふかした土がいい、どこまでやれるかはわからないけど土質改善を頑張ってみよう。
痩せて乾燥した土地でもジャガイモは育つため、僕は琥珀のダガーを使ってジャガイモの種芋を作った。
小さなものはそのまま、大きなものは出ている芽の位置に気をつけて二等分や三等分に切り分ける。
切り口は天日で一日干して腐敗を防ぎ植えてもらうように指示を出す。
「芋は腹にはたまるけど、他にも野菜いるんじゃねえの?」
ダルマーさんが言った。
船員の栄養状態を見て料理を出すだけあって栄養学的な知識があるみたいだ。
「この土では難しいですね……」
ガフールさんの部下の農村出身の兵士が悩ましげにいう。
「どうするんだ雄馬」
ベイルが考えがあるんだろ?と言った顔で尋ねた。
「錬金術で空気からパンを作ってみようかな」
「なんだって?」
ベイルはすっとんきょうな声を出した。
植物を育てるには窒素、リン、カリの成分が必要になる。
その中でも一番入手しにくいと言われているのが窒素。
それをアンモニアの形で生成できるのが空気からパンを作るって言われてる、ハーバーボッシュ法だ。
ざっくりとした説明をすると、空気を四酸化三鉄を触媒に高圧をかけて生成する装置でアンモニアを作る。
四酸化三鉄は火成岩に含まれるマグネタイト、つまり海岸でとれた砂鉄が使える。
高圧に耐えられる装置に関しては琥珀のダガーで最硬の木材リグナムバイタを生成して構成、強度と靱性、それに500℃の高温に耐える耐熱性は紅玉の腕輪の力で強化して作った。
高温高圧に耐えるカーボンナノチューブをイメージして強化したためか、真っ黒な装置になった。
空気の他にも水素も必要になるため、それに関しては伐採した木や雑草などを腐らせてエタノールを採取、加熱して発生した合成ガスを水上置換して水素を抽出。
圧力をかける装置に関しては水車を原動力に、逆止弁を用いたコンプレッサーを作る事で対応した。
これにてなんとかアンモニアはゲット。
近くの海鳥の集まる場所に堆積した糞の化石「グアノ」からリンをゲット。
海が干上がった場所にできる岩塩カリ鉱石に関しては、ラビアルのクレーターに海水の溜まった物がいくつかあったため、紅玉の腕輪で塩化カリウムになるまで乾燥させてゲット。
三つの材料を混ぜて化学肥料が完成。
土の中の微生物なども必要になるため山から腐葉土を集めてきて畑の土に混ぜる。
全ての作業が終わった頃には村人も船員達もみんなへとへとになっていた。
でも仕上げに僕が畑に小麦やさまざまな野菜を生み出すとみんな満面の笑みを浮かべた。
作業班とは別に食料確保を頼んでいたベイル達狩猟班が鹿や猪を捕まえてきた。
僕はその中にジャコウジカみたいな動物がいるのを見て、試しに幻影水晶を使って鹿に協力してもらい 香嚢 から赤いゼリー状の物体を取り出した。
強烈なアンモニア臭にみんな困惑していたが、気にせず紅玉の腕輪を使ってそれを乾燥させて粉にして、お酒を蒸留して作っておいたエタノールに溶かして香水にすると様子が変わった。
「ほー、香水か。こりゃなかなかいい匂いだな」
「男らしくてモテそうな匂いだ」
海賊達は興味津々でわいわいと集まって手首に縫ったりして香りを楽しみ出した。
「ムスクか、いい物を見つけたな」
ガフールさんが感心した様子でそういった。
「その様子だとこっちの世界でも貴重品なのかな」
「ああ、高く売れる。この村の収入源として使えるんじゃないか」
「金儲けの話かい?それならオイラの出番だね」
インコ獣人のオリバーはどこからかサッと飛んできた。
「こういうのはブラックオリーブ商会に商談した方が良さそうッスね、なしつけときまさぁ」
そういうとオリバーは香水を僕の手からかっさらい、そそくさと飛び去っていってしまった。
「返事すら待たずにいってしまった」
「まぁあいつに任せときゃ損はしねえよ」
呆然としている僕にクガイが笑いながら言った。
何はともあれプリベーロ村の生活基盤はこれでなんとかできた。
後は琥珀のダガーでブーストをかけて紅蓮地獄とパラディオンへの補給も加速できそうだ。




