811回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 592: ミクマリ姫
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プリペーロ村の側にある丘の上、海に沈む夕日を眺め黄昏ているミクがいる。
誰かを想う女性ほど美しいものはない、いつかインガがそう言っていた事をクガイは思い出す。
自分には縁遠いものほどかけがえの無いものに見える、彼が今ミクに抱いている感情も一時の気の迷いなのだろうと彼は思った。
「シラクスが気になってるのか?」
クガイはミクに温かいお茶を差し出して言った。
「うちの国ピンチだから、いろんな国に救援を頼んで回ってるんだけどねー」
結果は芳しくないとその表情が言っていた。
「ここに来たのはそのついでか?」
「女の勘、貴方がいそうだなーって、気がついたらここに来てたの」
彼女は冗談めかしてそう言ったがあながち間違いではない。
恐らくそれは彼女に流れるシラクス王家の千里眼の力だ。
バルバラッド帝国第一王子ギレイがシラクスを選んだ理由もその力のためと言われている、ミクマリ姫は歴代でも稀に見る才能があると言われている。
「女を磨けなんていうから告白かと思って、確認に来たんだけど?」
彼女はそう言って意地悪な笑みを浮かべてクガイの表情を覗き込む。
クガイは彼女の好意に応えられない自分に自己嫌悪しながら作り笑いをする。
「驚いたよ」
彼女がここに来たこと、そして彼女がクガイの心に影を残したある女性にそっくりになって来たことについて、クガイは心のうちを吐露する。
ミクは自分を遠い目をして見つめるクガイに少し残念そうな顔をした。
「姉さんに似てきたって言われるんだ私。一度は婚約者になったけど、クガイは私じゃなくて姉さんが好きだったんだもんね」
ミクのその言葉にクガイはしまったと思った。
いつも彼は無自覚に女性を傷つけてしまう。
「すまねぇな」
「謝らないでよ私がカッコ悪いじゃない。……それに婚約はなかったことになったんだしさ」
そういうとミクはクガイの背中にもたれ掛かり、頬を当てた。
「姉さんもクガイの背中好きだったのかな」
クガイは心痛に深く息を吐く。
ミクと彼の心には同じ形の傷がある、それに対してどう向き合えばいいのか、彼はまだ答えを出せずにいた。




