82回目 それとなく異次元の世界
俺はいろいろあって異世界に転生した。
しかしその世界には性別という概念が存在しなかったのである。
厳密にいえばその世界に存在する高次空間に生息していたヴェルポレピュックという種族が人類の生息域に侵略を開始し、あっけなく人類は彼らの支配下に置かれ、性別という観念を喪失させられることとなった。
その理由はヴェルポレピュックの生殖にあった。
種としての進化を人工的に進めてきた彼らはある段階で「生命は生殖による継承を含めた個体である」という原則を見誤りその部分が機能しない形で複雑化を進めた結果、ヴェルポレピュック種のみでの生殖が不可能になり、生殖を他種族と行う事を目的として彷徨い、彼らと相性の良い人類を発見したのである。
具体的にその方法というのがヴェルポレピュックと人間の男との交配であり、人間は男女間での生殖を禁止されたのだった。
そんなこんなで成長した俺はヴェルポレピュックの一人(外見はタコと芋虫が混ざったような形で人とは思えない)のリュキアレィリアキュスとのカップリングを政府によって義務付けられ、生殖をおこなった。
実は俺はあまりにも自分の将来に対する不安感から義務的に行われていたヴェルポレピュックの生殖によって起こるあれこれについての教育課程を寝たふりをしたり欠席したりして受けてこなかったため、まるでどうなるか知らずにいた。
街の中を妊娠したリュキアレィリアキュスと歩いていると、彼女(もしくは彼?)は彼女の姿を見るや逃げ出した一人の年配の男性を追いかけていった。うねうねうぞうぞした体からは想像もつかない速度である、わかりやすく例えるなら超高速で動く芋虫である。とても気持ち悪い。
俺はおじいさんの安否が気になり急いで彼女を追いかけていく。
道中妙な怪音がリュキアレィリアキュスから発せられていたのだが、それは彼女の鼻歌のようなもので、俺が彼女の好物を調理して出したりすると発し始める事からとても彼女が上機嫌なのがわかった。速度は速いが彼女にとっては競歩くらいのものなのだろう。
路地裏の行き止まりに追い詰められたおじいさんを捕らえた彼女は、彼の口の中に自分の体から出した一本の太く鋭いトゲのようなものを強引に突っ込むと、体内からなにかの塊を彼にねじ込み始めた。
そして彼女の口から放出された糸でおじいさんを繭のようにぐるぐると巻いて、壁に這わせてあった鉄パイプにそれを吊るし、俺を見た。
うごうご、うぞうぞうぞ。
っと動くと彼女はきゅ~とまた怪音を出した。
「やだ、見てるなら言ってよ恥ずかしいじゃない」
理解したくはないが彼女が今そう言いながらもじもじしながら顔を赤らめていたのだと理解した。
後で調べたところ、どうも人間の男は老齢化するとヴェルポレピュックの幼生の苗床にされる。
という事が政府とヴェルポレピュックとの協定で決められていたらしい。
という事はいずれ俺もああなるのだろうか?
帰り道に本屋を外から見て見るとなるほど、結構大きなコーナーで老齢からのサバイバルコーナーが設けられていた。
きゅ~い
そう言ってリュキアレィリアキュスは俺の体に触手を巻き付け体を押し付けてきた。
彼女のドクンドクンという生々しい心音の圧力は凄いが、こうして懐いてくると少しだけ可愛いと思えてしまう自分の適応力の高さに異世界で気づかされ驚かされている。
老齢になるまではパートナーのヴェルポレピュックが他のヴェルポレピュックの苗床になるのを防いでくれるらしく、本格的にサバイバルを始めないといけない時の為に筋トレでもして、一風変わった俺の彼女とそれなりにうまくやっていかねばならない。
まったくやれやれである。




