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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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809回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 590: 踊り歌えば

 プリベーロ村のヤブイヌ達はみんな元気になったものの、当初の目的だった紅蓮地獄とパラディオンの補給に関しては問題が立ち塞がってしまった。


 プリベーロ村の住民達が長期間寝込んでいたことに加えて、元々彼らの生活はかなり貧しく補給物資を確保できる状態ではなかったのだ。

 それはそれとしてみんなラビアルに残された物資を回収するなど作業を進めていた。


 僕はひとまず村の大人達と話がしたいと思ったが、みんなまだ人間が怖くて相手にしてくれない。

 これだけ怖がるって事は過去によっぽどの事があったんだろうし、原因をアーバン達に聞いて嫌なことを思い出させるのも気が引けるのでそれは置いておこう。


 そんなことを考えながら村の中を散策していると村人達の恐々とした目の監視が続く。

 このままじゃ状況が変わるめども立たない。


「なんとか打ち解ける方法はないものかな……」

 と呟きながら歩いていると、手拍子が聞こえてきた。

 その方向に向かうと手拍子に合わせて踊る子供達がいた。


 それを見て閃いた僕は紅蓮地獄の船員の馬獣人に金貨5枚で尻尾の毛を分けて貰い、弦楽器用の弓を作り。

 村にあったノコギリを片手に子供達の側に近づくと丸太に腰掛け、ノコギリをまげて踊りのテンポに合わせて演奏してみた。


 いきなり演奏を足された子供達は始めは驚き戸惑っていたが、すぐに笑顔を見せて音楽に合わせて踊り出した。


 次に僕はお土産になるかと船で作って持ってきていた蓄音機を出した。


「お次はこれとかどうかな?」

 そういって蓄音機のスイッチを入れると、スピーカーから音楽が流れ出した。


 紅蓮地獄の音楽の得意な船員に頼んで録音しておいた軽快な楽しい音楽だ。

 紙を末広がりの筒状にしてスピーカーを作り、それに針をつけ、レコードを動かす動力はぜんまい。

 内部機構は少し複雑なため琥珀のダガーで生み出した木製部品を生成して組み立てた。


 載せるレコードは蝋を溶かして作った、つまりアナログレコード再生装置だ。


 レコードというと円板のイメージだけど、録音の都合でエジソン式蓄音機にしたのでレコードは紙コップのような円筒式だ。

 溝のないレコードに針を落としてスピーカーから音を入れると、その振動が針に伝わり溝を掘る。

 今度は針の向きを逆にして溝をなぞると音が出るという仕掛けだ。


 蓄音機を初めてみたらしい子供達はポカンとした後、仲間とお互いの顔を見た後うなづき、僕を見て目を輝かやかて踊り出した。

 みんなが嬉しそうに踊るのが楽しくて僕が彼らの踊りに合わせて手拍子していると、子供の一人が笑顔で僕に手を差し伸べてきた。


「にいちゃんも一緒に踊ろうよ!」


「僕もかい?僕は遠慮しとくよ、うまく踊れないと恥ずかしいし」


「いいんだよ、僕らも動かしたいように体動かしてるだけだもん」


「上手い下手なんてないよ!さぁやろう!」


「仕方ないなぁ」

 そう言いながら僕は少し照れながら踊り出す。


 始めは本当にちょっとだけ恥ずかしかったけれど、みんなが僕を輪に加えてくれて一緒に踊るうちにだんだんテンションが上がってブレイクダンスの動きとか無駄に激しい動きも交えて激しく踊り出してしまった。


 悪ノリした僕に子供達はみんなキャッキャと声をあげて笑い、それからしばらく一緒になって踊り続けた。

 なんだか小さい頃に戻ったみたいで楽しかった。


 その後紗夜にお願いして食材を分けてもらい、イタリアのボローニャ地方のお菓子「トルタ・ディ・リーゾ」を作って子供達に振る舞うことにした。


 リーゾとあるようにお米を牛乳と砂糖で煮込んでリゾットにして、卵と混ぜて、干し葡萄と松の実、風味づけにリキュールを加えて、クッキー生地を下地にしてオーブンで焼いたものだ。

 お米や食材と土台にしたクッキーの食感が楽しいカスタード風味のプディング、踊りでお腹を空かせた子供達はおお喜びで食べてくれた。


 子供達と親しくなった僕たちを見て大人のヤブイヌ達も安心して受け入れてくれたようで、病気から助けてくれたお礼を言いに来てくれた。

 僕らに心ばかりの宴会を開いてくれるらしい。


 紅蓮地獄のみんなもそれぞれ村人と仲良くなるために頑張ってくれていたらしく、いつもクールなミサゴが子供に肩車をせがまれてやってあげてる姿を見かけたりもした。


 宴会の中でヤブイヌのアーバン達が旅の間に身につけた大道芸を、師匠のイタチのトマと一緒に披露して村人や子供達がわっと笑顔を見せていた。

 ヤブイヌ達も優しい顔をして満足げだ。


 村人達とも仲良くなれたし、明日から色々頑張らなきゃな。

 そんな事を思いながら、僕はその晩村人があてがってくれた寝所で眠りについた。

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