806回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 587: 無人港ラビアル
上陸した港は見事に破壊されつくした廃墟の街だった。
風の音に混じって怨嗟の声のようなものが聞こえる。
街を抉るように無数にある爆発痕から黒い粒子のようなものが見えた。
風に乗って浮遊するそれはどこかヤブイヌ達と似た匂いがする。
道案内に僕らを先導するヤブイヌ達、そのリーダーのアーバンは街の様子を少し眺めた後、僕に振り向くと少し寂しげな笑顔をして歩き始めた。
ヤブイヌ達の里に向かう道中ヴカが僕に近づいてきた。
「あんまこういう話はしたかねえがよ、最悪の事態は常に想定しておけよ」
彼は周りに聞こえない声でそう耳打ちする。
その視線の先には紗夜の姿があった。
「殺しを生業にしてる奴らにゃーまともな道理が通用するとは思わないほうがいいにゃ」
リガーもそれとなくそういうと、そこらで摘んだ道草を食む。
彼らの言うこと一理ある、人殺しに慣れている人にはどうしても価値観にズレが生まれてしまうものだ。
それは本人にも自覚が持てない病巣のように広がって、気がついた時には人道との致命的な齟齬となり取り返しのつかない過ちを犯してしまう。
立場的に見れば紗夜は僕らにとって危険な存在だ、僕は少し彼女に気を許しすぎているのかもしれない。
でも僕には彼女はまだ引き返すことのできる場所にいる、そう思えてならない。
それならせめて彼女があるがまま自分の人生を生きていけるように、手助けができる場所にいたい。
こんな内心を話そうものなら、きっとまたみんなに呆れられてしまうのだろうけど。
「彼女は仕事に忠実なだけで悪人ではないと思うんだ」
僕がそういうとヴカは呆れたような顔をして首を横に振った。
「仕事の為に冷酷無比になれるなら敵として扱うに十分なんだぜ?」
「自分の甘さの責任は自分で取る覚悟はしておけ」
見かねたのかミサゴがそう僕に耳打ちすると、羽ばたいて空に偵察に向かう。
プレイヤーの力なら簡単にモンスターを殺戮できる、対応できるのはおそらく僕とクガイだけだ。
紗夜がもし僕達に危害を加えるような動きをみせたなら即座に彼女を手にかけるつもりでいろ、という意味だろう。
僕の身勝手でみんなを危険に晒すわけにはいかないから、いざという時にはそうするつもりではいる。
でもきっと紗夜はアイリスがいる今の状況ではきっと彼女が悲しむような事はしない、そう思うのだ。




