801回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 582: 残された希望
「お前の宝輪を全て渡してくれれば仲間には手出しはしない」
ガルギムさんはそういうとクガイの目を見つめた。
仮面の下の目は以前と同じにどこか寂しそうな光をたたえている。
「お前の父はこの海を守るために命をかけ犠牲になった」
返答に詰まったクガイを後押しするように彼は言葉を続ける。
「だが奴が守ろうとして居たのは、先代海王である奴が抑止力となり、人間に好き勝手やらせることがなかったあの頃のオーガスティン諸島の海だ」
そう言ってガルギムさんは海を見る、その視線の先に彼の記憶を見るような眼をしている。
「今は人間達が我々モンスターを賊と呼び滅ぼして海を支配しようとしている、状況が違うんだ。我らが主人裁定者ラヴォルモスはこの世界から人間を消し去るのが目的だ。魔王ヴァールダントにかわる我々モンスターの守護者としてその権能をお使いになるつもりなんだ、彼を解き放たなければ我々は滅びるのを待つだけになる」
「……仲間の無事は保証してくれるんだな?」
クガイはガルギムさんの目をまっすぐ見つめるとそう尋ね、彼はその問いにうなづいてみせた。
「いいのかよキャプテン」
ダルマーさんが言った。
「お宝と仲間、どちらが大事かは比べるまでもねえだろ」
多分僕とクガイが犠牲を厭わず大暴れすればこの場でも切り抜ける可能性はある。
でもおそらく全員の大半が戦いに巻き込まれて死んでしまうだろう。
それはガルギムさんも理解した上での交渉、破談にすれば痛手を負うのは向こうも同じだ。
クガイは僕の意思を確認するかのようにこちらを見る。
僕はうなづき、彼は手に入れた宝輪、そして形見でもある操舵輪の形をした首飾りをガルギムさんに投げて渡す。
ガルギムさんがそれを受け取ると、邪神族の触手が船を離れ、ガルギムさんを乗せて船を離れ出した。
その様子を見た軍艦達も包囲を解き、この場を去っていく。
ガルギムさんは去り際に僕を見ると、何が言いたげな目をして去っていった。
「俺に親父のような力があれば…あいつを裏切らせずに済んだかもしれない、不甲斐ねぇ」
クガイは悔しげに頭を横に振る。
「残りの宝輪を集めてから襲ってきてもいいはずなのに、なんで今だったんだろう」
僕が口にするとみんなは僕に注目した。
「僕はガルギムさんがわかってて僕らにチャンスを残したんじゃないかって思うんだ」
そういう僕にクガイは同情と申し訳なさの入り混じったような顔をした。
「まだあいつを信じてるのか、お人よし過ぎるぜ」
「クガイも信じたいんでしょう?少しでもその気持ちがあるなら、自分を偽るべきじゃないよ」
僕の言葉を聞いて彼はガルギムさんが消えた方角を眺め、思考を巡らせる。
自分の中のいろんな気持ちや考えを頭の中で見つめ直しているんだろう、そして彼は出した答えを口にする。
「そうだな…俺も信じてえ。あいつとは長い付き合いだし、限界まで味方でいてやりたい」
「俺らはキャプテンがそのつもりならついて行くだけですよ、まぁあいつの事は信じちゃいませんが」
「馬鹿なキャプテンには俺たちがついててやらねぇとな」
海賊団の面々が口々にそういうと、みんなうんうんとうなづいた。
「オメエらもうちょっと言い方ってもんがあんだろォ?」
クガイが情けない声を出すとみんなは笑う。
そんな仲間達の様子に彼は吹っ切れた顔をした。
「でもサンキューな、これで迷いは晴れた。行こうぜ絶海、そんでアイツを捻り上げて本音を吐かせてやるんだ」
「なにか手立てはあるのか?」
ベイルが甲板に飛び乗り僕の隣に着地しながら聞いた。
「残りの宝輪があれば行きだけはなんとかなるかもしれねえ」
操舵輪の宝輪だけが絶海からの帰り道を作れる、それがないということはつまり片道切符と言うことだ。
「私も一緒に行くわ、それに残りの宝輪が必要ならこの子も必要になるでしょうし」
紗夜はそう言うとアイリスの肩をポンポンと叩く。
「アイリスが宝輪を持ってるってこと?」
「まあ…その時が来たらわかるわよ」
彼女はなぜか少し口籠った。




