795回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 576: 黒い疾風の少女
「先手必勝だ!」
ベイルはそう言って踏み込み加速して、ギロチン攻撃を交わし背後に回り込んだ。
攻撃を仕掛けようとした瞬間、ベイルは青ざめた顔をして身構え、大男の背中から生えた無数の棘に刺し貫かれた。
「ベイル!」
僕は追撃をかけようとする大男を衝撃波の大罪魔法で吹き飛ばし、ベイルの下に駆け寄る。
「あいつ後ろにも目が、ウグッ」
「喋らないで」
見たところ内臓の損傷はなさそうだ、だけど片足を酷く怪我していて走れそうにない。
ベイルの言ったように大男の背中にも目があり、背骨を左右に挟むように生えそろった棘を自在に伸ばせるようで死角はないようだ。
僕はベイルを庇い前に出て大男を迎え撃つ。
ギロチン攻撃を交わし、山刀で攻撃を仕掛けようとするが棘による刺突攻撃で阻まれる。
そのうえ大男が動くたびに吊り橋が揺れて踏ん張りも効かず、動きも制限されてしまう。
姿勢を崩してよろめいた僕を見て、頭陀袋の下の大男の口がニヤリと笑う。
「しまっ……」
大男は大きく跳び僕の頭上を通り抜けると、空中で体ごと一回転させたギロチンをベイルに振り下ろす。
僕は吊り橋の板の端を爪先で捉えて跳び、ベイルとギロチンの間に滑り込む。
「ダメだ雄馬!」
ベイルの悲痛な叫びが響く。
そのとき黒い風が吹き銀色の糸を煌めかせた。
次の瞬間両断されたギロチンが空を飛び、日本刀を手にした黒い着物の女の子が僕らと大男の間に立っていた。
彼女は横目に僕を見ると、拳を振り下ろそうとした大男の顎を後ろ回し蹴りで蹴り上げる。
彼女が呪符を手にした左手を下段に構えると、刀の血流しに光る文字が走る。
「火蜂」
彼女がそう言うと呪符が何匹もの燃え盛る大きな蜂に変わり、大男を撃ち抜き吹き飛ばし、内部から爆発炎上させて消し飛ばした。




