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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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793回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 574: 悪魔の岩礁イハンスレイ

 進むにつれて海の色が茶色く変わっていく。

 ガルギムが言うには茶色い海に見える物はサルガッスムという藻のような見た目の虫らしい。

 それが群れをなして海面を漂い、船に取り付いて舵を効かなくさせ遭難させる。


 この辺りには魚もおらず、遭難した船員達は藻に見えるアレを食べる。

 すると付着した幼生が脳に入り込んで繁殖して船員はグール化、幼生の成長のために食人する様になる。


 そして最終的に宿主の死体が海に捨てられると海流に乗りこの海域に辿り着く。

 この膨大な量の藻は全て人の死体を栄養に繁殖した物らしい。

 そんな得体の知れな物のと共存し、グール化した海賊たちを操るとまで言われている邪神教の信者達がこの先にいる。


 クガイがメダリオンの力で海獣を呼び、船の周囲を防御させて対応する。

 海獣がサルガッスムを蹴散らして見えた海は、生き物が死に絶える海のために透明度が高く、見ていると心の何かを吸い上げられるような深い闇色の青だ。


 ガルギムの指示に従い邪神教徒達に気づかれないように近づくことになった。

 夜闇を利用して影霊を船と僕らに纏わせて、闇と同化しながら進む。


 座礁した船が折り重なり青白い火をだして燃えてる、奇妙な岩礁にきた。

 その中の一隻からイハンスレイに侵入する。


 青白い火は熱くはないけど触れてると幻が見えてくる。

 同行していた船員が幻の中にお宝を見て得体の知れない化け物のいる穴に飛び込み、引き裂かれて死んでしまった。


 僕らは火を避けるため船の内部の壁の穴を使い船を渡っていく事に。


 何度か別れ道に遭遇し、仲間と別れながら進み、最終的に僕はベイルと数人の船員を連れて先に向かうことになった。


 怖がって震えながら僕にしがみつくベイルを撫でてなだめる。

 なんだか遊園地でデートしてるみたいだけれど、このお化け屋敷は油断したら命を落とす本物だ。


 船をいくつか乗り換えていくと、これまでの雰囲気に似つかわしくない豪華客船へ続く穴に辿り着いた。


 幽霊船じみた今までの船とは違い光と音楽が穴から漏れてきていて、中では華やかなパーティを行なっている。


 中に入ると人影はないのに談笑する声や物音や音楽だけが聞こえてくる。

 周囲には様々なご馳走が並んでいて、どれも出来立てで美味しそうな匂いがする。


 ベイルが手を出そうとするが制止する。

 しかし船員の1人が耐えられずに食べてしまい、飲み込んだ瞬間姿が消えてしまった。


 生命力探知をかけると彼がどこかに攫われていくのがわかり、急いで後を追う。


 嫌な予感がして蔦を這わせると、見えてる景色と生命力探知で知覚できる周囲の構造が違うことがわかった。


 僕は生命力探知で構造を把握しながら進む。

 いく先々で船員達が宝石や女性など誘惑に駆られて姿を消していった。


 生命力探知の終点、大ホールに辿り着いた。

 

 見た目には綺麗なのに変な匂いがする。

 油分の多い植物を張り巡らせて火をつけると、一瞬蠢く触手まみれの化け物と食われてバラバラになった船員の姿が目に映った。


 どうやらここは化け物の腹の中、僕らは誘い込まれた獲物らしい。


 すぐにまた異常なまでに正常な大ホールの光景に戻り、化け物の叫びと全員の肉や骨を咀嚼する生々しい音が響く。

 正しい知覚ができない状態であんな化け物と戦うのは無茶だ、僕は腰を抜かしたベイルをお姫様抱っこして逃げる。


 ホールの階段下の扉に入ると先ほど放った火が燃え広がりボロボロになった廃船の実像と、燃えて悶えるグール化した乗客達の姿が見えた。


 通路を埋め尽くす大量の触手の津波に追われながら、迷路のような船内を走り、グールを蹴散らしていく。


 いくら進んでも同じ場所に戻ってきてしまう。

 触手とともに指人形にされた船員が襲ってくる。


 立ち直ったベイルと二人でそれらと戦っている最中、攻撃が当たった壁の一部が一瞬崩れるでもなく穴が空いて、瞬時に元に戻るのが見えた。


 僕はベイルの手を引きその壁に体当たりすると、壁は無数の虫になって四散し大穴が空いた。


 穴の中に転がり込むと暗闇のドロドロした船の中に出た。

 化け物は船をうつることはできないようで、壁はそのまま塞がれ、化け物もいなくなった。


 しかしこの船に閉じ込められると今度はひどい耳鳴りと立ちくらみが僕を襲った。

 甘い声で囁く何かの声が聞こえ、周囲を飛び回る緑色の妖精のようなものまで見え始める。

 囁き声を聞いていると意識が朦朧としてくる、妖精はそんな僕らを嘲笑うように笑顔を見せた。


 喚き声をあげて発狂した遭難者が走ってきた。

 訳のわからないことを喚きながら、自らの傷から腹に手を捩じ込んで折れた刃物を取り出して襲ってくる。


 僕はそれを交わして当身をするが、倒れ込んだ遭難者は口から大量のカミソリを吐き出して死んでしまった。


「なんなんだよこれ」

 ベイルが怯えきり僕にしがみついてくる。


「大丈夫幻か何かだよ」


 僕は遭難者の口の中を見て、下の切断痕を確認する。

 鋭利な刃物ではなく、切れ味の悪いもので潰し切ったような痕跡があった。


 遭難者が腹部から刃物を出すときに臓器が零れ落ちるのが見えた、そんな状態で動ける人間はいない。

 つまり僕らが見たのは幻、演出過剰が裏目に出たといった所だ。


「多分彼は幻覚で驚いて舌を噛んで死んだんだよ」


 種を見破った僕に妖精は不愉快そうな顔をして喚き声をあげた。

 僕は周囲に植物を張り巡らせて火を放つ。

 光に驚いた妖精達は逃げ去っていった。


 行きがけに拾ったランプに火を灯して先に進むと、闇の中に目が見えはじめた。

 意識が侵食され始めているのかも知れない、無数の人々の苦しむ呻き声も聞こえ始める。

 僕は幻影水晶でベイルと精神を繋いで、二人の心を同期させお互いの正気を保つ。


 外にも出られないし先にも進めず、壁を壊すと敵に気付かれるしどうしたものかと考えていると、白い女神像が目に入った。


 近づくとその後ろに鏡があるのがわかった。

 鏡写しにだけ映る鏡がそこかしこにあるのがわかり、それぞれの鏡に扉の絵が描かれていて、反射した壁にその通り扉があるのがわかった。


 僕は試しに扉を描くと鏡に写ってる壁に扉ができ、その中に入る。


 すると次の瞬間床が粉々に砕けて、下に真っ逆さまに落ちてしまった。


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