791回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 572:君を想う
その夜、ベイルと同じベットで横になりながら、震える彼を抱きしめていた。
戦いではあんなに勇ましい彼も、魔の海域に入るのは怖いようだ。
入ったものがみんな狂い、食人鬼になる魔の海域。
オーガスティン諸島に暮らすすべての人が恐れ海賊達ですら近寄らない場所。
僕たちの次の目的地。
僕に甘えるベイルは可愛くて、こうして撫でるのも正直至福の時間だ。
彼は気持ちよさそうに喉を鳴らしながら、まだ不安の残る表情で上目遣いに僕を見る。
「ベイルが嫌なら船で待っててくれてもいいんだよ」
彼は少しだけ悩んだ後強がってむくれ顔をした。
「怖くなんてねぇし、バカにすんなよなっ」
相変わらず震えている。
きっと僕のために無理をしてるんだろう、申し訳ない気持ちになった。
「いつも苦労かけてごめんね」
「水臭ぇ事言うなよ」
そう言いながらベイルはどこか嬉しそうな顔で起き上がり僕の隣に座る。
彼は震える自身の手を見つめ、握りしめて震えを止める。
「俺な、雄馬に出会わなきゃもっと弱くて臆病で何もできないやつだったんだ」
「そんな事ない……」
僕が言いかけたのを遮るようにベイルは輝く瞳で僕を見て言葉を続ける。
「お前のためなら勇気が湧いてくるんだ、一つ一つ積み重ねるようにお前と冒険するほど俺は強くなってる。誇れる自分になってるって感じるんだ」
「ベイル……」
「だからな雄馬、俺はこれからもお前と一緒だぜ。どんな危ないことをするって言っても、俺はお前のそばにいる。絶対にそのことだけは変えたくないんだ」
「そこまで言われちゃ置いていくなんて言えないね。でも絶対に無理はしないで、危なくなったら自分の命を優先する事。約束できる?」
ベイルは僕の手を掴んで「もちろんだぜ!」とニカっと笑い短い尻尾をブンブン振る。
ハイエナ獣人の笑顔は歯が強烈でインパクトがすごい、全身で喜んでる感じがする。
僕はそんな彼が愛しくて頭を撫で、頬にキスをした。




