790回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 571:次の目的地
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数日後、僕は紅蓮地獄でヤブイヌ達と料理の手伝いをして、配膳のために甲板に上がり、ベイルとサメ獣人が喧嘩しているところに出会した。
ベイルの尻尾の付け根から脇の下をマッサージすると、彼は「ひゃあん」と声を上げて腰砕けになってへたり込む。
サメ獣人の拳を交わして、鼻先を指先で触れて動きを止め、そのまま鼻先を撫で回して「はひっは……はひっぃ」と絶頂させて落とす。
サメの鼻先にはロレンチーニ器官という繊細な部分があり、そこを撫でるとうっとりしてしまう。
サメ獣人も同じようで撫でくりまわすともう僕にメロメロと言った様子で縋り付いてきた。
「相変わらず馬鹿な事してんなぁ」
そんな僕を見てヴカは呆れた顔で笑いながら料理を受け取る。
「バカって言わないでくださいよう」
そう言いながら僕も笑う。
ヴカの心に以前の影はない、そのことがただ嬉しい。
「無事に帰ってきてくれて良かったぜぇ雄馬ぁ」
ベイルはそう言いながら僕に顎を擦り付けてマーキングしている。
僕に縋り付いたサメ獣人に対抗しているようだ。
「でもこの先どうすんだろうな、結局宝輪は手に入らなかったわけだし」
ヴカが少し心配そうに言う
「ああ、それなら大丈夫」
僕はあの時焼けこげたはずの手のひらを見せる。
火傷は跡形もなく綺麗に治っていた。
「あの時女の人の手が僕に触れて、気がついたら手の中に軍配があったんだ。傷が治ってるのはこれの宝輪の力なんじゃないかな」
僕はポーチから軍配を取り出して言う。
ヴカは僕の肩を抱いて僕の顔に頬擦りする。
「なにするんですかいきなり」
僕がドキドキしながら尋ねると彼は優しく笑う。
「お前にこうしてやれって頼まれたのさ」
「あんまり心配させないで欲しいな」
ミサゴが僕の背中に背中を合わせてもたれ掛かり、さりげなく頬擦りする。
「ごめんね、でもサポート助かったよありがとうミサゴ」
「当然だ」
ベイルは僕の腕を抱きしめ二人に威嚇しながら体を擦り付けてマーキングをさらに激しくした。
ガルギムさんが遠巻きに僕を見つめて、ヤブイヌ達が僕の周りを取り囲み、ガフールさん達はそんな僕を側でさりげなく見守っている。
「お前の周りだけ雄くさいハーレム状態だからいつも見つけるのが簡単なんだよな」
クガイは呆れたようにそう言いながらやってきた。
僕は彼に軍配を手渡す。
「これで四つ目、いよいよあそこに行く時が来たか」
クガイがガルギムさんを見ると彼は複雑そうな顔をした後うなづいて見せる。
「魔の海域、忘却の海レーテー」




