783回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 564:グリダロッド争乱(3)
「二度と彼女を奪わせるものか」
その言葉と共に霧に浮かぶ幻のように一人の白衣姿の男が姿を現した。
幻影水晶と紅玉の腕輪の脈動を感じる、どうやら彼も大罪の悪魔になりかけているようだ。
『見覚えがある、たしかディーンといったかブロックの助手をしていた男だ』
「ネオヴィクトリアの開発者……」
ディーンは僕の言葉に嬉々とした表情で狂気の笑い声を上げ、ナイトシェイドを愛しげに抱きしめる。
「ああ、ステファニー……、君は荒野のような私の人生にたった一度だけ咲いた花だった」
ディーンは陶酔したかのように語り始める。
「私がどんな功績を残そうと誰も私に目を向けようとしなかった。そんな色褪せた日々の中で君だけは私に声をかけてくれたね」
彼が深い感慨に浸りながら続ける中、グール兵が次々に現れ交戦を余儀なくされた。
「無理に言った私のつまらない冗談ですら楽しげに笑ってくれた。彼女のためになら私は全てを捧げても構わないと思っていた。それなのに、あの男が全てを台無しにしたんだ」
ディーンは怒りに震えながら言う。
「彼女を幸せにできるのは私だけだ。彼女が愛するのは私でなければならなかった。なのに、ステファニー……君は過ちを犯してしまった」
ナイトシェイドの改造が進み、混沌侵蝕がこの場を蝕んでいく。
それは機体に組み込まれたステファニーの悲鳴のようにも思えた。
「あんな人間もどきのケダモノを選んだばかりに君は不幸になってしまった。私だけが君に本当の愛を与えることができたのに。君は彼に惑わされ殺されてしまった」
その言葉に対するヴカの鎮痛な気持ちが伝わってきた。
ディーンは僕をニタリとした目で見る、まるでヴカの反応を見透かしているかのように。
「それは間違ってる、彼女を不幸にしたのはお前だ。二人を騙し陥れた、全てあんたが招いた事だろ」
『雄馬……』
「馬鹿なことを言う、私は彼女を導いたんだ」
ディーンは笑いながら言った、その目はすでに正気を失っているように見える。
「彼女は私の手により完全な存在となった。その力で贖罪を成すために」
彼が仰々しく宣言すると、グール達が雄叫びをあげ攻勢が強まった。
「偉大なるあのお方を閉じ込める忌々しき檻、オーガスティン諸島を焼き払い、この世界の真なる神を復活させ彼女の罪を浄化する。そして今度こそステファニーは私と一つとなるのだ!」
ディーンは霧のように霧散すると、風が吹きすさび、舞い上がった植物の葉がグールと連携して僕の体を切り刻む。
クガイとベイルに通信を入れると、二人も凶暴化したグールに追われながら引きつけてくれてるようだ。
おかげでなんとか致命傷は避けてはいるがこのままではジリ貧だ。
ディーンの特性は不定形の霧、風の力なら対抗できる。
僕は幻影水晶に意識を集中しマンティコアを召喚した。




