778回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 559: ナイトシェイド
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その後僕らは奇跡的に動いた銀の薔薇を使い紅蓮地獄に帰還した。
「ビッグエクセレント!だわいなぁ!!」
ファルスタッフをボロボロにして戻った僕らを、ブロックさんはハイテンションで迎えてくれた。
「えっとあの、船を壊したこと怒ったりしないので?」
おずおずと尋ねると彼はニコニコしながら「誰がそんなことするかわいな」と答えた。
「難攻不落と呼ばれ数多の海賊を沈めてきたグリダロッド海軍の艦隊を打ち破った上、最新型の攻城兵器の直撃を受けても平気な船を作るなんてさすがワシだわいさぁ!」
そう言うとブロックさんはファルスタッフに抱きつき、レーザーの被弾で焼けこげた箇所をうっとりと頬擦りした。
たしかに冷静になって見てみると表面が焦げているだけで溶けた様子もない、操縦席の温度も2〜3度が上がった程度だった。
「でも動かなくなっちゃいましたよ?」
「もちろん狙い通りだわさ」
そう言ってブロックさんは何が起きたのか説明し始めた。
ファルスタッフの外部装甲は混沌侵蝕による力場を形成していて、敵オブジェクトによる攻撃を混沌エネルギーに還元しファルスタッフ内部のオブジェクト機関全体に拡散させ受け流せるらしい。
「想定内の負荷でのオーバーヒートだから、ちょいと修理すれば万全の状態で乗れるわいな!」
と彼は早口気味にテンション高く絡んできた。
「グリダロッド側にも高速艇があるんですね、それもファルスタッフ並みの性能だった」
「あれはファルスタッフの兄弟機、ナイトシェイドだわいな。ワシが基礎設計まではやったんだが、みょうちくりんな触手なんぞつけおってからに」
ブロックさんは子供みたいに不貞腐れた。
「バランスも悪いからレスポンスも低下しとるし、あれじゃ設計コンセプトから外れすぎで性能が出しきれんわいさ」
「あれで不完全なんですか、設計通りだった場合どうなってたんです?」
「ファルスタッフが攻撃艇との戦いを想定しているのに対して、ナイトシェイドは敵の拠点を破壊するための船、超高速航行からの一撃離脱が正しい使い方だわいな。万全のスペックを発揮した場合パラディオンは撃沈、紅蓮地獄もただでは済まなかったかもしれんわいな」
ブロックさんは自慢げにいうが、想像しただけで寒気がする話だ。
「ファルスタッフの性能を見せつけるために次戦う時は絶対に叩き潰して……」
うるせえ!とヴカが話を遮り近くにあった樽を蹴り割り、ブロックさんは驚いて「ひょっ!?」と素っ頓狂な声をあげた。
彼はそのまま陰鬱な顔をして去っていってしまった。
ブロックさんはそんな彼を見て意外そうな顔をした。
「どうした事だわいな。良い動きをしとったからてっきり調子が戻ったのかと思ったわいさ」
「本当は撃沈できてたかもしれなかったんです。あの船からの介入通信で女の人の声が聞こえて、彼の様子がおかしくなって」
僕の言葉を聞いてブロックさんが神妙な顔をした。
「女の声、どんな内容だったんだわいな?」
「ノイズ混ざりで子守唄のようなものを歌ってました、なんだか幽霊みたいで怖かったんですけど」
「幽霊か……言い得て妙かもしれんわいな」
彼はそういうとファルスタッフに書かれた文字を見る。
「ステファニーがあの船に"組み込まれている"なら、関係性の深いヴカに繋がった混沌兵装と共鳴した可能性があるわいな」
「どういう意味です?」
「グリダロッドに死者の脳を使った完全自立型兵器の開発を行っている奴がいたんだわいさ。ナイトシェイドがあいつの手に渡っていたとしたら……まぁ考えるだに虫唾の走る話だわいな」
「あの声はヴカさんの恋人の……?」
僕の言葉にブロックさんはうなづく。
大切な人を失っただけじゃなく弄ばれるなんて……。
「ヴカさんにはその事は言わないでもらえますか」
彼には言わず、あの機体は破壊しよう。
その気持ちと共に言葉を口にすると、ブロックさんは察したような顔でうなづき、「どうするかはお前さんに任せるわいな」と言った。




