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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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777回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 558: ワイルドギース(2)

 現れた黒い船は動きの質が他の攻撃艇とは一線を画していた。

 高速艇だ、スペック的にはファルスタッフと互角。


 トップスピードで的確にこちらの死角に入り攻撃を繰り出してくる。

 操縦士もヴカと同じかそれ以上の操船技術があるという事だ。


「上手いな、向こうが雇った傭兵か」


「なんて加速だ、攻撃が間に合わない」


「機体性能もだが、あんなじゃじゃ馬を乗りこなせる傭兵がまだいたとはな」

 ヴカの声に少し焦りが見えた。


 今のところ致命的な被弾は回避できているが、防戦一方になっている。

 このままではジリ貧だ、攻勢に回らなければやられてしまう。


「気を抜いたら死ぬぞ、歯食いしばってついてこい」


 ヴカはさらに航行速度を上げた。

 肉体的にかかるGやオブジェクトコントロールの負担が爆発的に増えて目眩がしたが歯を食いしばって耐える。


 紅蓮地獄とパラディオンによる包囲射撃も始まり混沌とした海域で、戦火を掻い潜りながら二艇の高速艇が激戦を繰り広げる。


 ヴカが攻撃に適した位置取りを掴み始め機会を逃さず射撃するが、黒い高速艇がうねらせる四本の触手の様なマニピュレーターがその先端に不可視の壁を出して攻撃を相殺してしまう。


 あの壁を抜くには機銃では弱い、しかし魚雷やマイクロキャノンではあの機動速度に追いつけない。


 主砲のレーザーをヴカがかろうじて回避、相手の僅かな硬直時間を突いて機銃掃射を見舞う。


 その時触手が妙な動きを見せ、黒い高速艇が真横に高速起動して回避し、こちらの回避軌道に急速接近して触手で攻撃してきた。


 僕はすかさず魚雷を零距離発射し、その爆発の衝撃でファルスタッフを緊急退避させ触手を回避する。

 海面を叩いた触手の衝撃波が海面に大きなクレーターを作った。


「なんだぁありゃぁ」

 ヴカが驚いて呟く。

 戦艦の大砲より遥かに強力な一撃だ、喰らったらひとたまりもない。


 そのうえ相手は魚雷を食らっても傷ひとつ無いらしい、でも今の攻防で対処法は見えた。


「相手の周りを回る形で全速力、行けますか」


「何をする気だ」


「やってみたい事があるんです」

 僕がそういうとヴカは何も言わずにファルスタッフの軌道を変えて、黒い高速艇の追撃に対して弧を描いて回り出した。


 直線軌道と曲線軌道では速度に差がある、あっという間に追いついてくる。

 僕は移動の間に機雷を出せるだけばら撒き、機銃を黒い高速艇に放つ。


 黒い高速艇は触手でガードしながら残った触手で真横に回避しようとした。

 次の瞬間黒い高速艇が複数の爆発に巻き込まれ、触手が全て海から弾き出された。


 思った通り、相手の特殊な機動は水中で触手の先端から高圧空気を放射して行なっているものだったようだ。

 

 先ほどの触手攻撃で乱れた海流が残っている間に、相手の周囲を機雷で囲み機銃で動きを制限した。

 その間に海流が運んだ機雷が触手に反応して爆発したのだ。


「回頭!全速力で近づいて!!」


「やってる!」


 海から触手が出た今なら黒い高速艇の機動力が落ちてる。

 僕は魚雷を連射して触手が海に入ろうとするのを阻止。


 マイクロキャノンの直撃コースに入った。


()った!!」

 マイクロキャノンの引き金に手をかける。


 その時オブジェクト機関に干渉した外部からの音声通信が入る。

 ノイズ混じりだが子守唄を歌う微かな声。


 ヴカが呻き声をあげファルスタッフを急速旋回させ、発射したマイクロキャノンを外してしまう。


 側面に黒い高速艇のレーザーの直撃を受ける。

 コンマ数秒で脱出はできたがファルスタッフ内部の機関の幾つかが焼き切れて異常が発生している。


「どうしたんですか一体…」


「駄目だ、あの船は……」

 ヴカは朦朧とした声でぶつぶつと呟く。


 ファルスタッフは航行不能になり急速に速度が落ちていく。


 不幸中の幸いグリダロッド艦隊は壊滅状態になり撤退を開始していたが、黒い高速艇はこちらに主砲を向けたまま佇んでいた。


 永遠にも感じる様な僅かな時間の中、なぜか黒い高速艇はこちらを眺める様に動きを止めていた。


 やがて静かに回頭しグリダロッド艦隊と同じ方角に去っていく。


「助かった……」

 安堵のため息を漏らしシートにもたれかかる。


 ヴカがキャノピーを開いて「待て!」と叫んだ。


「なにやってるんですか!?戻ってきたらやられちゃいますよ」


 衝撃の大罪魔法を全力で使えばなんとかなるかもしれないが、今の状況で数日動けなくなるのは避けたい。

 僕は念の為に持ち込んでいた山刀を握ると、黒い高速艇の動きを注意深く見つめた。


 僕の懸念とは裏腹に黒い高速艇はヴカの言葉を聞かず去っていく。

 歌もノイズ混じりになり聞こえなくなり、ヴカはシートに崩れ落ち項垂れた。

 手で顔を抑えた鎮痛な表情、その目は虚ろに何かを見つめている。


「まさか、お前なのか?」

 ヴカは深傷でうめく様にそう言うと小さな声でステファニーと呟いた。

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