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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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775回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 556:波濤の猟犬

 海面に着水したファルスタッフのオブジェクト推進機構が船体を弾丸のように敵陣に突入させる。


 あっけに取られているとヴカが「ボサっとするな、さっさと撃て」と言った。

 一瞬で敵の射程距離に入っていたらしい、敵の猛烈な砲撃が襲ってくる。


「うわわっ!?」

 僕は慌てたがヴカは手慣れた様子で回避する。

 

 先制攻撃の機会を逃してしまった、僕は急いでマシンガンアームで敵の攻撃艇を迎撃し始める。

 次々に撃墜できる、しかしそれは僕が上手いというよりヴカが狙いやすい位置に船を移動させているからだ。


 初めてとはいえ足を引っ張ってしまっている。

 僕はマイクロキャノンを放ち、その爆発で敵と自機の間に海水の壁を作り操縦のサポートをした。


 武器は海水をオブジェクトで凝縮させ固化させた弾丸を用いている。


 混沌兵装は僕らの世界の兵器を再現したものを搭載している。

 ファルスタッフの武装は二本のマシンガンアーム、一門のマイクロキャノン、魚雷、機雷。

 敵も武装の面では同格のものを用意しているようだ。


 操縦における役割は火器管制とオブジェクトへの精神力の供給係。

 船の主操縦はヴカが行っている。

 彼の荒々しい運転にあわせて力を出し続けるのが思ったよりしんどい。


 攻撃こそ最大の防御を地でいく戦法が彼の持ち味らしい、敵の攻撃が迫ると回避や減速どころか加速して突っ込んでいく。


 無鉄砲に思えるが多数を相手に一騎で撹乱をかけるにはうってつけだ。

 僕らは敵の攻撃艇を次々に撃破し、戦艦の梶を司る部分を破壊して回る。


 敵船団は僕らを無視できなくなり、艦隊の動きがファルスタッフ迎撃のために動き始めた。


 それを見た紅蓮地獄とパラディオンが二手に分かれこちらに進路を取り始めたのが見えた。


 敵のシャープな形の攻撃艇が何隻もこちらを追撃する中、それらが追いつけない速度で航行しつづけるファルスタッフの性能はずば抜けていると言えた。


 敵が攻撃にオブジェクトを用いる際に機動力が落ちるのに対して、ファルスタッフはどんな兵装を用いても機動力を維持することが可能だ。

 そのアドバンテージにより攻撃時の敵が最も撃破しやすい状態が作り出される。


 まさにヴカの為だけに調整されたマシンといっていい。

 それに命を与える彼の操船技術は海賊を恐れさせた伝説の傭兵に相応しいものだ。


「こんだけぶん回して泣き言一つ言わないのは褒めてやるよ」

 ヴカは高速機動を続けながら涼しげにいう。


「あなたも酔っ払いの割にやるじゃないですか」


「ハッ生意気言いやがる」


 ヴカが避けそびれた攻撃を機銃掃射で相殺する。


「やっぱり飲酒運転はダメですね」


「お前がどれくらいやれるか試してやったんだろうが」

 そう言うと彼はさらにギアを上げて速度を加速させた。


「うわっちょっと無茶はやめてくださいよ」


「お前がどこまでついて来れるか見てやるよ」


 口だけではなく動きの精密さはさらに上がっている。

 興が乗ってきたようだ良い傾向だけど、これ以上ペース上がるは正直本気で辛いぞ。

 エンジン役と砲手の両立がそもそも重労働なのに加えて、操縦士のスパルタで泣きそうだ。


「人の気も知らないであんたって人は!」

 僕は全兵装をフルバーストして敵を蹴散らし道を作り、ヴカは戦場を全速で飛ばしながら笑い声を上げた。


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