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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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771回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 552:カリビアンスタッド

 手持ちのコインが無くなった方の負けという事でバグジーを加えたメンバーでゲームが再開した。


 意外だったのがそこからのゲームではイカサマが使われなくなったことだ。

 それにも関わらず形勢はどんどん悪くなる。


 バグジーはイカサマ無しとは信じられないほど異常に引きが強い、天性の豪運って奴だろうか。

 このテーブルが彼を中心に回り出し、ディーラーも含めた全員が彼にコインを吸い上げられていく。


 漏れ聞こえてくる他の参加者の動揺の思考からするに、みんなこの賭場のマスターである彼に遠慮しているわけではない。

 むしろ本気の勝負を好む彼から金を巻き上げるチャンスとすら思っている者もいるのに、一方的に負けてしまう。


 この流れは彼の運だけではない、心理掌握術によるものだ。

 気を強く持たないと一息に飲み込まれてしまう雰囲気作りのうまさと、彼の勝負勘の強さで退路すら塞がれてしまう。


 このテーブルで僕だけはかろうじてさほどコインを減らさないでキープできているが、正直紙一重だ。


 こういう相手との勝負は避けられるなら避けるべきだけど、今はこの豪運を撃ち破る手段を探さなくては。


「イカサマを使っても構わないぞ」


 バグジーは僕の焦りを読み取ったかのように口にする。

 狙いは僕の心理的イニシアチブを握るためだ、そうはいかない。


「相手に使う気がないならやらないよ、面白くないからね」


「ふむ、流儀に合わせて真っ向勝負か、悪くない心がけだな少年」


 僕の返事を聞いたバグジーが指を鳴らすと他の客がはけ、ディーラーも彼にデッキを渡して立ち去った。


 僕とバグジーの一対一の勝負。

 海賊の海、カリブ海に発祥を持つと言われるカリビアンスタッドポーカーだ。


 このゲームは公平を期すためプレイヤーは手札をディーラーに全て晒さなければならない。

 その上でディーラーは一枚だけ表を向け、残り四枚は伏せる。

 プレイヤーはディーラーの手札を予測して勝負する事になる。


 デッキのシャッフルが手慣れている。

 バグジーの引き込まれるような所作の美しさと心地よい音で、二人だけの世界に引き込まれていく。


 バグジーは当然のようにデッキを差し出し、ディーラーを僕に譲った。


 僕は事前にレイジから聞いていたこの世界のカリビアンスタッドポーカーのルールを頭で反芻しながら、ディーラーとしてカードを配り、自分の手札を確認して伏せ一枚を表に向けた。

 

 バグジーの手札はフォーカード。

 これに勝てる役はストレートフラッシュか、ロイヤルストレートフラッシュのみ。


 彼は胸元から一枚の羊皮紙を取り出しテーブルに置いた。

 それを見た周囲の海賊たちがどよめいた。

 それはこの店の権利書のようだ、つまり賭博海賊クラップスの心臓を賭けに出した事になる。


 バグジーはにこやかな顔で刃のような光と深い闇を湛えた視線を僕に向ける。

 それは彼の経験に裏打ちされた勝負師の眼光。


 このゲームの観客がみな固唾を飲む。


 僕は気圧されて彼のペースに持っていかれないよう、腹に力を入れて勝負に挑む。


 僕は追加のチップの代わりにテーブルに琥珀のダガーを置いた。


 ベイルが言葉にならない声をあげたが、自分で口を塞いで我慢したようだ。


「魔王候補者のカオスオブジェクト、七獣将の軍団を退け海軍基地も殲滅した。噂に名高いこれが琥珀のダガーって奴か」


 バグジーの言葉に周囲がどよめき、ベイルやクガイも言葉を失っているようだ。


 僕が紅玉の腕輪も外しテーブルに置こうとすると、バグジーは制止するように手のひらを見せ首を横に振った。


「あいにくと俺様は魔王四秘宝に釣り合うようなものは持ち合わせてない、負けたら命ですら対価には足りんだろう。降りさせてもらう」


 バグジーの言葉に賭場の海賊達がどよめいた。

 彼の視線に促され、僕は自分の手札を明かす。


 そこには役を持たない組み合わせ、いわゆるブタの手札が明らかになった。


 それを見たバグジーは目を丸くした後大笑いした。


「こいつはしてやられた、実に豪気だ。ハッタリに自分の存在意義すら賭ける勢いとはな」


「これくらいしなきゃ勝てる相手じゃないですから」

 僕がそういうと彼は満足げに店の権利書を僕に手渡した。


「完敗だよ、これからこの店も俺の海賊団もあんたの物だ。アンタになら安心して俺の仲間を任せられる」


「ちょっと待てよバグジー、お前もしかして雄馬に自分の組織押し付ける為に仕掛けたのか?」

 クガイが彼に尋ねた。


「最近ちいとばかし厄介な病気にかかっちまってな、俺はいつ死ぬかわからん。誰に継がせるか悩んでるとこにおめおめ魔王候補者様がやってきたらそりゃもうそのつもりになるだろーが」


「カーッ、負けても予定通りなんてとんだペテン師だ」

 クガイは悔しそうに言う。


「こちとらそれで飯食ってるんでな」

 そう言ってバグジーは僕にウィンクした。

 面倒な事にはなったけれど、ひとまずコレで目的達成だ。


 ほっと一安心しかけた所でヴカが突然バグジーの胸ぐらを掴み、手にしていた酒瓶をテーブルで叩き割ると彼の喉に破片を突きつける。


「なぁあんたさっきの話がまだだぞ」


「ヴカ、落ち着けって」

 クガイが彼をなだめようとしたがバグジーはそれを制止し、イーストウォッチタワー事件の真相を話し始めた。


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