764回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 545:ある傭兵の悔恨
次の目的地に着くまでの間、僕はコノハズク獣人のレイジにポーカーを教わる事になった。
レイジはいつもポーカーでボロ負けしている。
そんな彼に教わって大丈夫かと思ったが、そんな考えとは裏腹にレイジはポーカーのあらゆる技術に精通しているようで、いろんなことを教わった。
特に彼のイカサマの妙技には驚かされた。
彼がデッキの一番上のカードを捲り伏せる度に毎回絵柄が変わり、配られたカードを弄んでいる間にも絵柄が変わる。
つまり彼にはそれだけ自然にカードをすり替える事が可能なのだ。
「凄いや、でもこれだけできるのに何でいつも勝てないの?」
「へへへ……俺の場合は手札の良し悪しが顔にでちまうんでな。後は別に勝ちにこだわってないからかもな。みんなとポーカーできるだけで楽しいから、俺にはそれで十分なんだわ」
僕とやり取りしている最中、他の船員にポーカーに誘われ約束する彼は実際心底嬉しそうな顔をしていた。
僕らの明るい雰囲気とは相反して、船の外は延々と続く崩壊した景色。
僕はふとヴカとブロックさんのことが気になった。
「さっきヴカさんとブロックさんが神妙な様子でダンウィッチの島を見てたんですが、あの二人って昔何があったんでしょう?」
「俺の知ってる範囲だとブロックはグリダロッドの兵器開発を主導してた技術者だったって事と、ヴカは元は名うての傭兵で引退間際はグリダロッドに雇われていたらしいって事くらいだな」
「波濤の猟犬、最強の 高速艇乗り と恐れられる男だった」」
そう言ってガフールさんが話に入ってきた。
「噂レベルの話だが……」
そう言ってガフールさんが話し始めた事によると。
現在いるアナパム地方でのシラクスとの戦闘がこう着状態にあった頃、グリダロッドはヴカを騙してある作戦を決行した。
戦争のどさくさに紛れダンウィッチの街を狙う反逆者の集団がイーストウォッチタワーに結集していて、それを撃滅するための新型爆弾を打ち込むという名目の作戦だ。
ダンウィッチの街はヴカの生まれ故郷で、その近辺での戦闘に彼は難色を示していた。
しかし共に高速艇に乗っていた相棒であり恋人だった女性が妊娠した事がわかり、傭兵から引退するための金が欲しかった事と、街には被害が及ばないと聞かされて彼はその作戦を引き受けてしまった。
ヴカの高速艇はシラクス海軍の包囲網を交わし、イーストウォッチタワーに爆弾を打ち込む事に成功した。
爆弾は混沌侵蝕を伴う爆発を発生させ、爆発に巻き込まれた人々をさらなる起爆剤にして爆発は島を飲み込みシラクス海軍に多大なる損害を与え、ダンウィッチの街も消滅した。
「口封じの為に僚機からの攻撃も始まり、その事態に動揺したヴカは判断を誤りステファニーを死なせて、過去しか見られなくなってこいつはどこにも進めなくなったんだワイな」
そう言ってブロックさんがヴカを縛って引きずり連れてきた。
「その後グリダロッドは無理な兵器開発を止めようとしていた技術主任に罪をなすりつけ、処刑が命じられた技術主任もヴカも行方を知る者がいなくなった。もっぱら秘密裏に殺されたという話だったが」
ガフールさんがそう言いながらブロックさんを見ると、彼は肩をすくめてみせる。
「同じく処刑のために追われていたこいつを連れて逃げてる時に、この船のキャプテンに拾われたってわけだワイな」
「俺は助けてくれなんて言ってないぞ……」
ボソリというヴカにブロックさんはため息をつく。
「俺が何かすると碌でもないことになる、生きてても仕方ねえよ……」
そう言うヴカの目は完全に死んでいる。
生きる気力を失ってしまっているらしい。
「爆弾の使用を止め切れなかったワシにも責任がある、立ち直らせるまで面倒を見るワイさ」
ヴカは良い迷惑だと言うような目をすると酒を飲む。
ブロックさんはそんな彼にやれやれと首を振った。
ブロックさんは頼れるものが他にないと言った様子の目で僕を見た。
「お前さんと一緒にいた事でミサゴは人が変わったように前向きになったワイさ、そんなあんたに今度はこいつを任せたいんだワイな」
ヴカは廃人同様で、僕に彼のためにできることがあるかわからないけれど……。
頼られてるなら断るわけにもいかない。
「わかりました、僕にできる限りのことをさせてもらいます」
「恩に着るワイな」
ブロックさんは嬉しそうな顔をして尻尾を振る。
ヴカは相変わらず不貞腐れながら、ふんと呟き酒を飲んでいた。




