763回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 544:バルバラッド帝国
ガルギムさんの治療の後、僕は彼からこの地方についての話を聞いた。
この地域を支配する国グリダロッドは混沌兵装開発の急進派で、不安定な混沌兵装を用いる事とその開発に際して混沌侵蝕で周辺環境を汚染するのが問題視されていた。
無理に技術開発を進めた彼らは現在技術的な行き詰まりに陥っていて、打開策として古くから堅実に技術開発を進めてきたシラクス統合国の技術を奪いたがっている。
そのためにグリダロッドは海賊国家ロアノークと手を組み、シラクスに対して攻撃を繰り返しているらしい。
シラクスの歴史ある基礎と安定化を重んじる混沌兵装、トールハンマーの攻撃を見たブロックさんは一つの技術体系の極地、芸術品だと口にしたらしい。
ロアノークとシラクスは共にバルバラッド帝国の皇帝オルロンドの息子が王をしている。
皇帝は支配下の国の姫と子を作り、産まれた子を各国の王として据え皇位継承のために国同士で戦わせている。
最後に残った国を統べる者が次期皇帝とするのがバルバラッド帝国習わしなのだという。
ちなみにこの世界の国のほとんどがバルバラッド帝国の支配下にある、ディアナ公国もその一つだ。
皇帝になるということは、人間においてはこの世界の新しい支配者になるという事に等しい。
つまり世継ぎ争いも壮絶なものになる。
ロアノークの第三王子ディオニスとシラクスの第一王子ギレイは有力候補同士。
ディオニスは海軍を持たず、人間による海賊を配下に入れて侵略を繰り返す事から暴虐王とも呼ばれている。
「そんなおっかない国の力を借りてるなら、慌てて兵器開発なんてしなくてよくないか?」
ひょっこり現れたベイルが首を傾げながら言った。
「なまじ関係を持ってしまったが故の恐怖というやつさ。ロアノークはグリダロッドの混沌兵装を目当てに手を貸している、役に立たないと判断されればシラクス攻略のための捨て石にされかねない」
「それに加えてグリダロッドは人命の扱いが軽い、国という形を維持できるなら人が何人死のうがかまわない。そんな事情が最悪な形で噛み合ってるんだ」
クガイがそう言って話に入ってきた。
「じいさんの話じゃグリダロッドが宝輪を混沌兵装にしようとしてるらしくてな、完成する前に叩く必要がある」
「つまり混沌兵装まみれの軍事基地を攻撃する必要があるわけか、ガフールさんが難色を示すわけだ」
そう呟いていると話を盗み聞きしていたリガーが船を飛び降りようとした。
僕は蔦を生み出し彼をがんじがらめにして取り押さえる。
「うにゃーッ!こんな船乗っていられねぇにゃー!!」
リガーは叫びながらジタバタしていた。
「こんなとこで降りたら溺れて死んじゃうよ」
苦笑しながらリガーに言うと、僕はクガイを見る。
「今回は流石に正面突破というわけにもいかないよね、手立てはあるの?」
「ある、が、その為にちっとばかしお使いを頼まれてくれ」
クガイはそういうとニヤリと笑った。




