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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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762回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 543: 炎の海プレゲトン

 このあたりは元々シラクスの領海で、それを奪うためにグリダロッドが混沌兵装で住民ごとシラクス海軍を攻撃した。


 それにより付近にいたシラクス海軍の部隊は全滅。

 グリダロッドがこの海域を手に入れ、彼らがこの海域に作った兵器工場から拡散する混沌侵蝕が黒い雪を降らせ、生き延びた人たちも死に絶えてしまったらしい。


 幻影水晶を通じて強い悲しみを感じそちらを見ると、ロバ獣人が何かを見つめていた。


 彼の視線の先には大きな島があった。

 何かしらの爆発で無惨にも地形が崩壊し、歪な形にゆがんでいる。


「ダンウィッチの街だワイさ」

 いつのまにかそばにいたブロックさんが言った。


 ダンウィッチというと、イーストウォッチタワー事件でブロックさんが消し飛ばしたって話の場所だ。


 ロバ獣人を見るブロックさんからも刺すような心の痛みを感じる、罪悪感のような感情だ。


「ヴカ」


 ロバ獣人の名前だろうか、たしか紅蓮地獄の高速艇乗りの名前だったはずだ。

 彼はこちらに振り返ると、濁った目でブロックさんを見つめ酒をあおりまた島を見た。


 ブロックさんはロバ獣人の側まで歩き、無言で横に立ちダンウィッチの跡地を見つめた。


 二人に何があったんだろう。

 気になったけれど話しかけられる雰囲気じゃない。

 それに今はガルギムさんの手当てをしないと。


 僕は船室に向かい救急箱を手に取ると、甲板に戻ってガルギムさんを探した。


 彼はすぐに見つかった、しかし彼の周りのみんなの様子がおかしい。

 船員が数人ガルギムさんを遠巻きに取り囲み監視している。


 そのうちの一人が救急箱を手にした僕を見て話しかけてきた。


「あんたアイツと仲良くやってるみたいだけど気をつけた方がいいぜ」

 船員は厳しい目つきをして言った。

 

 ガルギムさんは邪神の眷属だ、さっきのシーサーペント達も彼が呼び寄せたんじゃないかと思っているらしい。


 そんな彼に対して気をつけて接しろという助言と、彼とあまり親しくするとお前も疑われかねないぞという警告だろう。


「ありがとう、気をつけるよ」


 僕は彼の好意に対して笑顔で答える。

 船員は「あんたと話すと調子が狂うな……」と反応に困った顔をして言った。


 ガルギムさんのそばに行くと彼は新しい仮面を被り一息ついていた。

 怪我の治療はまだのようだ。


「怪我の具合はどうですか?」

 尋ねながら彼の前にしゃがみ救急箱を開ける。

 ガルギムさんはそんな僕を見ると「痛みは落ち着いたよ」と言いながら怪我をした腕を差し出した。


 傷口は痛々しくとても痛みが落ち着いてる様には見えない。

 僕は酒を使ったアルコール消毒と、ベイルにも使ったガマの花粉による止血を行う。


 花粉はすぐに焼けてしまったが効果が出たのか血が止まり、その上にドクダミの葉を乗せて包帯でパッキングした。


「見事な手際だ」


「他のとこもやりますよ、残らず見せてくださいね」


 僕を気遣ってか治療を終わらせようとしたガルギムさんに即座にそう言うと、彼は苦笑しながら上着を脱いで、僕に傷を見せた。


 全身の怪我の治療が終わるとガルギムさんは上着を羽織りながら「ありがとう、痛みがずいぶん楽になったよ」と言った。


「強がってもわかっちゃいますから素直に言ってくださいね?」

 そういうと彼は「まいったな」と柔らかく笑った。


 僕らを取り囲む船員達の表情は今だに固く、その手には武器を握っている。

 彼らには彼らの事情があるにせよ、こんな針のムシロではガルギムさんが気の毒だ。


「僕たちの船に来ませんか?」

 そういう僕にガルギムさんは静かに首を横に振った。


「気持ちは嬉しいが私の身柄はクガイのそばにいる事が条件で守られている。この船を離れるわけにはいかない」


 「それにね……」そう言いながら立ち上がり彼は姿勢を正す。

 所作一つで雰囲気がガラッと変わり一軍の将の風格を放った。


 囚われの身で彼がそうするのは自らを戒めているかの様に見えた


「罪人の自由には犠牲がつきものなんだよ」

 そう言って微笑んで見せた彼の優しい目が僕を少し不安にさせた。

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